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- ECB1月理事会と最近のユーロ圏経済指標の勘所
欧州中央銀行(ECB)は1月30日の理事会で市場予想通り、政策金利を0.25%引き下げ2.75%とした。声明文や会見内容はハト派的であった。ユーロ圏の足元の経済指標をみると、インフレ率は上昇しているが、主にエネルギー価格の反動によるものだ。サービス価格の高止まりは懸念されるが、先行指標は鈍化を示唆している。ECBはインフレ鈍化や景気動向を確認しながら、利下げを継続すると見ている。
ECBは市場予想通りの利下げ、当面利下げ姿勢を維持する構え
欧州中央銀行(ECB)は1月30日の理事会で、政策金利(中銀預金金利)を3.00%から0.25%引き下げ2.75%とすることを決定した(図表1参照)。政策金利の引き下げは4会合連続で、市場でもほぼ全員が0.25%の利下げを見込んでいた。
ECBのラガルド総裁は同日の記者会見にはハト派(金融緩和を選好)的コメントとタカ派(金融引き締めを選好)的コメントの両方が含まれていた。しかし、利下げを止める議論については「時期尚早だ」と述べ、利下げ継続を示唆したことなどハト派寄りの内容が多かった。理事会後、市場ではユーロ安が進行するなどハト派的と受け止めたようだ。なお、2月からのユーロの変動はトランプ政権による関税政策への思惑も影響しているようだ。
ユーロ圏のインフレ鈍化はペースダウンながら、今後の鈍化を確信
ECBの1月理事会の声明文やラガルド総裁の会見からハト派姿勢が優勢だった背景を、最近発表された経済指標を参考に検討する。
インフレ率を3日に発表された1月のユーロ圏消費者物価指数(CPI、欧州連合(EU)基準、HICP)で振り返る(図表2参照)。総合CPIは前年同月比で2.5%上昇と、市場予想、前月(ともに2.4%上昇)を上回った。24年9月の1.8%上昇から4ヵ月連続で前月を上回った。しかし、足元の総合CPIの押し上げ要因は昨年低水準だったエネルギー価格の(前年比での)反動が大きい。1月のユーロ圏CPIが発表されたのはECB理事会の後だが、ECBはエネルギー価格要因による押し上げはこれまで再三指摘しており、仮にECB前にCPIの発表があっても、あまり問題視しなかっただろう。
懸念すべきはむしろサービスの高止まりだろう。1月は前年同月比3.9%上昇と、前月の4.0%上昇を下回ったが、依然高水準だ。サービスの価格を左右する賃金は高止まりしており、ユーロ圏で代表的な賃金指標である妥結賃金は24年7-9月期が前年同期比で約5.4%増と歴史的高水準だ。
しかし、賃金指標は最新が昨年秋(今週新データが発表予定)のもので、また賃金は更新も遅く、実態は異なる可能性がある。それを補うためECBは企業に賃金の聞き取り調査を行った。その結果、賃金の伸びに鈍化が見込まれるため、ECBは今後のインフレ鈍化は確度が高いと見ているようだ。
次に、景気認識を見ると、ECBはユーロ圏の景気回復の鈍さを懸念しているようだ。ECB理事会と同日に発表された10-12月期のユーロ圏GDP(域内総生産)成長率は前年同期比0.9%増と、市場予想の1.0%増を下回るさえない結果だった。短期的な動向を示す前期比ベースでは前期から横ばいであったうえ、ユーロ圏のコア国であるドイツとフランスの前期比の伸びは各々0.2%減、0.1%減とマイナス成長だった(図表3参照)。スペイン(前期比0.8%増)などのプラス成長によりユーロ圏全体での横ばい(0.0%)をようやく確保した格好だ。
ラガルド総裁は会見で、新鮮味はないが、製造業の回復の鈍さを指摘した。一方消費回復への期待を匂わす一方で、消費者マインドの悪化を明確に指摘した。このことが消費の回復の遅れの原因と述べた。ユーロ圏の賃金が高水準で、インフレは鈍化傾向なことから実質賃金は比較的高水準だ。しかし可処分所得はあまり消費には回らず、筆者の認識でも、ユーロ圏の貯蓄率は上昇傾向にある。積極的には「お金を使いたくない」ようだ。
ただし、ユーロ圏の雇用市場は底堅く、貯蓄率の高さは潜在的な購買力を示唆しており、ECBはコンフィデンスの改善に伴い、消費が回復する可能性を踏まえ政策運営しているようだ。
ユーロ圏の経済環境を踏まえると、緩やかながら利下げ継続が見込まれる
ユーロ圏の景気回復が鈍いこと、インフレ鈍化は足元ペースダウンだが、先行きについてはインフレ率の低下をECBは確度が高いと想定している。これらの要因に加え、トランプ政権の政策の不確実性がECBの関心事となっている。
このような整理のもとECBの今後の金融政策を占うと、インフレ鈍化などを確認しながら0.25%ずつの利下げを当面続けるのが基本となりそうだ。トランプ政権の関税発動の可能性など不確実性が高いこと、インフレ鈍化のペースが鈍いことから0.5%のような大幅利下げが行われる可能性は低そうだ。
ラガルド総裁は今後の金融政策運営方針について、「理事会(会合)毎、データ次第」を今回の会見でも維持した。原則はその通りだろう。ただ、他のECBメンバーの発言などを踏まえると、中立金利(景気を過熱も冷やしもしない金利)をめどに次回以降3月、4月、6月の会合まで小幅な利下げを続けるのがメインシナリオのようだ。なお、前回の理事会(24年12月)でラガルド総裁は中立金利の推定値の範囲が1.75%~2.50%であると示唆した。今回、ラガルド総裁は新たな推定値を2月7日に公表する予定だと述べた。利下げの終着レートとして、そしてECBの緩和姿勢を占うため、筆者はECBが公表する新たな中立金利の推計値(範囲)に注目している。
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