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- 米政権の不確実性の中、PCEや景況感指数に注目
1月の米個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比で2.5%上昇し、市場予想と一致した。内訳ではサービス価格が緩やかな伸びにとどまった一方で、コア財価格は前月を上回った。PCE物価指数は落ち着きを見せたが、2月のISM製造業景況指数は前月の50.9を下回った。新規受注などが低迷し先行き不安が示された。トランプ政権の政策の不確実性が企業マインドに影響し市場も不安定な状況だ。
米金融当局が重視するPCE物価指数の1月分は落ち着いた結果に
米商務省が2月28日に発表した1月の米個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比で2.5%上昇と、市場予想の2.5%上昇に一致し、24年12月の2.6%上昇を下回った(図表1参照)。変動が大きいエネルギーと食品を除いたコア物価指数は前年同月比で2.6%上昇と、市場予想に一致し、前月の2.9%上昇を下回った。短期的な変動を示唆する前月比の伸びも総合指数とコア指数はそれぞれ0.3%上昇し、市場予想と一致した。
2月12日に発表された1月の米総合消費者物価指数(CPI)は前年同月比で3.0%上昇と市場予想を上回ったことなどを受け、インフレ加速懸念が台頭したが、PCE物価指数は落ち着きを示した。
1月のPCE統計は消費支出が前月比でマイナスに転じたことが注目された
米連邦準備制度理事会(FRB)はPCE物価指数を重視する傾向がある。CPIに比べ幅広い分野をカバーしていることなどが理由だ。1月のCPIが市場予想を上回り、インフレへ再加速への懸念が高まったが、28日の市場はPCEがほぼ市場予想並みの伸びにとどまったことで安心感が戻った。
しかし、PCE統計では個人消費への懸念が示唆された。また,今週発表された2月の米ISM製造業景況指数はインフレと景気への不安材料も示唆しており、市場の不確実性が高い状況が続きそうだ。
PCE物価指数が落ち着いていたと判断された1つの理由はサービス価格が前月比で0.2%上昇と、前月の0.4%上昇を下回ったことがあげられる。
ただし、家具や自動車などモノの値段を示すコア財価格(食品とエネルギーを除く)は0.4%上昇と、前月の0.3%下落を大幅に上回り、インフレ懸念の根強さも示された。それでも、サービス価格の落ち着きにより、FRBが重視するコアPCE物価指数は小幅な伸びにとどまりひと安心となった。
1月のPCE統計では物価指数に加え、個人消費支出の動きも注目された。1月のPCEは前月比で0.2%減と、市場予想の0.2%増、12月の0.8%増を大幅に下回った(図表2参照)。実質ベースの個人支出で見ても、0.5%減と前月の0.5%増を大幅に下回った。支出を品目別にみると自動車・部品が落ち込んだ。娯楽用品も伸び悩んだ。衣服や食料なども前月のプラスから、1月は伸びがマイナスとなった。1月は山火事や寒波の影響が自動車購入などに影響した可能性もあり、指標から消費が伸び悩んだと判断するには時間も必要だ。ただ、サービス消費が外食などを除いてやや伸び悩んだのは気になるところだ。
なお、1月の個人所得は前月比0.9%増と、前月の0.4%増を大幅に上回った。商務省の声明文によると主に社会保障受取額がテクニカルな理由で急増したためと指摘されている。一時的な要因による変動と認識した方が良さそうだ。
1月のPCE統計では、物価についてはサービス価格が落ち着く一方で、財価格は上昇と違いはあるが、全体では落ち着きが示された。個人消費支出の1月の鈍化は、山火事などが押し下げ要因ながら、それがすべてではないようだ。トランプ政権の関税政策の不確実性などが消費に影響した可能性も考慮に入れる必要があるようだ。
2月の米ISM製造業景況指数は貿易政策の不確実性を受け軟調な結果に
1月のPCE統計発表を受け、物価の落ち着きを安心材料に当日の米株式市場が上昇したのもつかの間、翌週の3月3日に発表された2月の米ISM製造業景況指数はPCE統計の不安材料を浮き彫りにした面もあり市場は軟調だった(図表3参照)。
2月のISM製造業景況指数は50.3と前月の50.9を下回った。主な構成指数を見ると内容が良くない。指数全体を押し上げたのは価格指数で、2月は62.4と前月の54.9を大幅に上回った。先の2月のPCE価格指数で財項目が上昇していたこととも整合的で、製造業にインフレ圧力が根強いことが示唆され懸念材料だろう。反対に先行きを示唆する新規受注は48.6と前月の55.1を下回り、景気拡大・縮小の目安となる50を下回った。先行きが不確実なことから、人材への投資も抑制気味で雇用指数も47.6と、前月の50.3を下回った。
ISM製造業景況指数の回答企業のコメントを見ると、ほとんどがトランプ政権の関税政策や不確実性を指摘している。その結果、投資への慎重姿勢や、コスト(支払価格)上昇につながった。投資への慎重姿勢が新規受注指数などを押し下げ、コストは支払価格指数を押し上げたと思われる。
3月3日の米株式市場は大幅下落となった。景況感の悪化もあろうが、トランプ大統領がカナダやメキシコ、中国(3日、中国からのすべての輸入品に対し追加関税10%を課す大統領令に署名)への関税賦課を予定通り実施すると発言したことが響いたようだ。景気減速とインフレ再加速が懸念される関税政策を推し進めるトランプ政権に、今のところ、市場の声は届いていないのだろうか。
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