- Article Title
- 中国全人代、発表内容は予想通り、その真意は?
中国の全国人民代表大会(全人代)が開幕した。李強首相は25年のGDP成長率の目標を5%前後とし、米国の対中関税政策など不確実性が高い中でも、昨年と同じ成長目標を維持した。成長を押し上げる要因として内需を重視し、そのため財政政策の拡大や特別国債の発行の増加などが示唆された。なお、中国には不動産問題や、若年層の高い失業率などの問題も残されるが今後の対応にも注目している。
中国全人代、市場予想通り財政政策を拡大させ5%前後の成長目標を維持
中国で国会に相当する全国人民代表大会(全人代)が3月5日開幕した(11日閉幕予定)。毎年注目される経済目標について、李強(リー・チャン)首相は25年の実質GDP(国内総生産)成長率の目標を前年と同じ「5%前後」とした(図表1参照)。
トランプ米政権の追加関税が中国経済の下押し要因となることが懸念される中、全人代では財政政策の拡大を経済成長の柱とし、財政赤字GDP比率を4.0%前後と、24年目標の3.0%から引き上げた。財政赤字に含めない特別国債の発行を見ても期間が10年超の超長期債を1兆3000億元発行するとしており、昨年の1兆元から3000億元上積み、国内需要を支える構えだ。
全人代で示された財政拡大は国内需要の後押しとなりそうだ
中国の24年のGDP成長率は5%増と、成長目標を一応達成した。成長を支えた主な要因は①堅調な輸出(図表2参照)、②補助金による耐久消費財の買い替え促進政策、③製造業投資の拡大、と筆者は見ている。中国当局は今回の全人代で、25年の成長目標を5%前後に据え置いたが、李強(リー・チャン)首相の言葉からは、目標達成は容易でないこともうかがえる。
特に24年後半の中国経済は輸出に支えられ、12月の輸出の伸びは前年同月比10.7%増と堅調であった。純輸出のGDP成長率に対する寄与度を見ると昨年後半は4割程度が純輸出の寄与によるものだ。
しかし、輸出と輸入の差である純輸出が25年の中国の成長のけん引役であり続ける可能性は低そうだ。トランプ政権の関税政策が中国に対し手を緩める気配は今のところ見られない。そのうえ、昨年後半の中国の堅調な輸出の背景にはトランプ政権の対中貿易政策を見込んだ輸出の前倒しがあったと思われる。それが証拠に、6日に発表される1月の米貿易統計では、米国の輸入の急拡大を市場は見込んでいる。需要先食いの影響は中国の輸出の下押し要因となりそうだ。今年の中国の輸出に経済成長の役割を期待するのは難しそうだ。
李強首相は所信表明にあたる政府活動報告の中で、成長目標達成に向け国内需要の拡大を指摘した。その柱となるのが財政政策と見られ、財政赤字を4%前後に拡大させた。また、財政赤字に含まない特別国債の発行を昨年に比べ3000億元増やし、耐久財の買い替えを促す補助金に充てる意向だ。昨年の成長押上げ要因の②は今年も継続が想定される。
財政政策の主な使途として、消費底上げと、不動産問題で体力が落ちた銀行の資本増強が焦点と見られる。資本増強については昨年9月に中国国家金融監督管理総局が国有金融機関の中核的自己資本(コアTier1)を増強する計画を示唆していたが、全人代での財政政策拡大の方針はこの動きを後押ししそうだ。
また、政府活動報告では中国が科学、技術などの分野でより大きな影響力を持つことを示唆しており、③の製造業投資は25年も経済成長の押上げ要因となりそうだ。
中国の深刻な問題は不動産問題だ。とりわけ未完成住宅(在庫)の放置は深刻で、報道などでもたびたび取り上げられてきた。今回の全人代で発行枠が拡大された地方政府の特別債発行は住宅在庫の買い取りに使われようだ。
中国当局はデベロッパーに融資することでこれまでに1400万戸ほどの未完成住宅を完成させ引き渡したようだ。未完成住宅が全体でどの程度なのか推計値には幅があるが概ね4500万戸程度と思われる。これをまだ先は長いと見るのか、意外と進んでいると見るのか判断は様々だが、住宅在庫問題への対応は進められているようだ。
なお、最近の中国の不動産市場には底打ちの兆しも見られる(図表3参照)。住宅価格の下落傾向に歯止めがかかることも不動産問題の解決には重要と筆者は見ている。中国の住宅ローン金利の低下などが価格を下支えした可能性があるが、全人代でも適度な金融緩和が維持されそうだ。
中国の本当の景気回復には民間部門の再生が必要と思われる
今回の全人代の発表内容はおおむね想定通りで、内需中心に景気回復を目論んでいる。しかし、懸念も多い。消費の底上げに補助金を使って買い替えを促進させる政策は昨年も行っている。今年も効果があるのか未知数だ。
若年層の失業率は24年12月が15.7%と、低下傾向だが依然高水準だ。国家公務員試験の志願者が過去最高となったのも不安の表れだ。中国の若者は民間企業に対する懸念を払しょくできないようだが、幅広い雇用の底上げには民間部門の回復が不可欠だろう。中国に必要な政策は民間部門の再生と筆者は見ており、今後の対応や展開に注目している。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。