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日銀3月会合、バランスを取った会見内容だった
梅澤 利文
2025/03/21

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概要

日銀は3月の金融政策決定会合で、市場予想通り政策金利を0.50%に据え置くことを決定した。声明文では、日本経済の賃金と物価の好循環を指摘し、インフレ率が将来的に安定した水準で推移するとの見通しを示した一方で、リスクとして通商政策を指摘したが、全体的に発表内容は概ね想定通りだった。植田総裁の会見はタカ派とハト派のバランスを取ったこともあり、市場の反応は限定的だった。




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日銀は3月の会合で、市場予想通り、政策金利を0.50%に据え置いた

日本銀行は3月18~19日に開催した金融政策決定会合(会合)で、政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.50%に据え置くことを決定した(図表1参照)。今回の決定は、9人の政策委員全員が賛成した。また、事前の市場予想でも幅広く据え置きが見込まれていた。

声明文では、日本経済の先行きについて、「賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していく」姿を指摘するなど、従来の見方を維持した。インフレ率については、見通し期間後半(26年度)に「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると見込んでいる。なお、リスク要因に通商政策が盛り込まれた。

春闘の第1回集計結果などを念頭に、賃金はやや強いと認識

日銀の3月会合の発表資料である「当面の金融政策運営について」(声明文)や、会合後の植田日銀総裁の記者会見後の市場の反応は限定的だった。同日(日本時間20日早朝)に米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表を控えているうえ、想定より堅調な賃上げ動向というタカ派(金融引き締めを選好)要因と、海外の通商政策による不確実性というハト派(金融緩和を選好)要因がほぼ互角の綱引きであったため、市場は方向感を出しにくかったと思われる。注目度の高い植田総裁の会見も、バランスが取れた内容で、市場にあった利上げ前倒しというタカ派的トーンも、反対にハト派的トーンも抑えられた格好だ。

植田総裁は連合が14日に発表した25年の春季労使交渉(春闘)の第1回回答集計結果を(恐らく)念頭に、賃金は「オントラックの中でやや強め」と指摘した(図表2参照)。

春闘の結果を簡単に振り返ると、基本給を底上げするベースアップ(ベア)と定期昇給(定昇)を合わせた賃上げ率の平均は5.46%だった。昨年同期の5.28%を0.18%ポイント上回り「やや強め」の数字となった。賃上げ率の内訳は、ベースアップが3.84%で、昨年同期の3.70%を上回った。そもそも変動が少ない定期昇給分は1.72%で、定期昇給分の過去10年の平均を小幅上回る程度にとどまった。最近の春闘において、賃上げ率は5%を超える結果となっているが、原動力はベースアップであることがうかがえる。

中小企業(300人未満)の賃上げ率も5.09%と昨年同期の4.42%を上回った。上昇幅は大手組合より大きく、連合が中小組合と大手の賃金格差縮小を訴えてきたことが数字に表れているようだ。

ただし、小組合(99人以下)の賃上げ率は格差が残る数字となっている。植田総裁は賃金動向について想定よりやや強いと指摘した一方で、特に中小については交渉が本格化するのはこれからであることも指摘した。今後も賃金動向を慎重に見守る必要があることを示唆したのだろう。

なお、賃金交渉の最終結果は統計に表れるのを待つと、夏以降まで判明しないことが通例だが、植田総裁はすべてを待つのではなく、総合的に賃金動向を判断すると指摘した。この点はややタカ派的で、早期利上げの準備も一応整えている。

賃金以外にも、何点かタカ派的な発言があった。印象的なものとして、長期金利の水準を例外的に高い水準とは見ていないと述べたことだ。植田総裁は2月の衆院予算委員会で「長期金利が急激に上昇するような例外的な状況では、機動的に国債買い入れの増額(オペ)を実施する」と言明した。本日の会見でこの点を記者から質問されると植田総裁は例外的状況ではオペを行うと繰り返した一方で、「現状はそうした状況にはない」との見方を示した。足元の10年国債利回りは1.5%前後で、最初にオペに言及した時の1.4%前半に比べ高いが、それでもオペはまだという認識のようだ。

日本の(短期セクターの)実質金利がマイナス圏であることや、国民がインフレに苦しむ現状から、追加利上げ姿勢を維持した会見であった。

追加利上げを思いとどまらせたのは通商政策による不確実性のようだ

一方、追加利上げに慎重な点として、日本の景気に一部弱い面があることを指摘したことなども挙げられるが、最も目を引いたのは通商政策への懸念だ。声明文ではリスク要因として「各国の通商政策等の動きやその影響を受けた」との表現を盛り込んだ。利上げを決定した1月会合の時の経済・物価情勢の展望(展望レポート)などに比べ、関税政策のリスクに対する表現を強めた印象だ。展望レポートでは、「米国の政策運営を巡る不確実性は意識されているが国際金融市場全体では落ち着いている」といった説明にとどめていたからだ。

会見で植田総裁は素直に「関税リスクが急速に広がっている」ことを指摘した。4月2日とも見られる相互関税や、自動車など個別分野への関税は実施の有無という不確実性と、この不確実性が企業や家計のマインドを委縮させる可能性に懸念を表明した。明らかに、今回の会合で追加利上げをためらわせた要因であろう。

もっとも、植田総裁は通商政策の不確実性という霧が晴れるのを延々と待つわけではないとも指摘した。早ければ、次の展望レポートで影響を把握する可能性を指摘するなどバランスもとっている。

なお、質問の多かった米価格上昇については、米価格上昇が期待インフレなどに与える影響などには注視するが、価格そのものに金融政策で対応するのはコスト高と指摘した。筆者も同感である。

 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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