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インフレかデフレか? コロナ危機下の物価見通し
田中 純平
2020/05/01

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概要

コロナ危機による供給ショックは、都市封鎖や外出自粛によって個人の所得と消費機会を奪う点で、(天災等による)一般的な供給ショックと大きく異なる。当面は供給不足によるインフレ圧力よりも、需要消失によるデフレ圧力のほうが影響が大きくなるだろう。しかし、コロナ危機が終息した後は状況が一変するかもしれない。



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「失われた消費」がもたらすデフレ圧力

コロナ危機下の物価動向を見極めるうえで重要なポイントは「失われた消費」だ。今回のコロナ危機は、工場閉鎖や物流/交通網の遮断に加え小売店舗等も休業になるなど、供給ショックに起因する側面が大きい。(天災等による)一時的な供給ショックであれば、供給不足はインフレ圧力につながる。しかし、今回のコロナ危機は需要ショックも発生しており、都市封鎖や外出自粛によって個人の所得と消費機会を奪う特殊性の高い経済ショックでもあるため、「失われた消費(=需要消失)」を鑑みれば短期的にはデフレ圧力が高まるだろう。もちろん、都市封鎖や外出自粛が段階的に解除されれば、先送りされた消費がある程度戻ることも想定されるが、企業も個人も新型コロナの感染再流行を恐れ、しばらくは現金確保に動く可能性がある。投資や消費の減少によってもたらされるデフレ圧力には警戒が必要だ。

 

 

世界恐慌時はデフレ、その後は急激にインフレに転換

世界恐慌時(1930年~1933年)における米国のCPI(消費者物価指数)はデフレだった。世界恐慌は供給ショックに起因するものではなかったが、瞬間的な景気悪化のマグニチュードは今回のコロナ危機と近いものがある。CPIが0%を下回った時期は1930年2月から1933年10月、マイナス幅は最大で1932年10月時点の前年同期比-10.7%だ。この長期間に及ぶ強烈なデフレから脱却するきっかけになったのが、ニューディール政策(財政政策)と金本位制の離脱(金融政策)だ。そして、デフレ脱却後はわずか5ヶ月後の1934年3月にCPIは同+5.6%をつけた。大規模な財政政策と金融政策が打ち出された点で今回のコロナ危機と共通する部分もあるが、今回のように経済活動が抑制された中での財政/金融政策による物価への影響は限定的だろう。新型コロナの終息時期は見通せないが、少なくとも終息するまでの期間はデフレ圧力が続き、終息後は蓄積された財政/金融政策効果と抑制された経済活動による反動から、再びインフレ率が高まる可能性があることには留意が必要だろう。

 

 


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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