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- 分散投資実践編 ⑨ ~金融政策が与える金融市場への影響~
金融政策と金融市場には深い関係があり、大規模な金融緩和から急速な引締めに転じたことによる市場の影響は大きく、今後の政策運営に注目する必要があります。
■ 金融政策の転換が金融市場にもたらす影響
Don’t Fight the Fed(FRB※と闘うな)というマーケットの格言が存在するように、近年、中央銀行による政策金利の変更や市場への資金供給・吸収等の金融政策が金融市場に与える影響は大きくなっています。では、実際にどのくらいの影響力があったのか、過去の米国市場を参考に具体的に見てみましょう。
※連邦準備制度理事会
図表1は米国の政策金利(フェデラルファンド金利)と米国の中央銀行であるFRBの総資産、米国株式の推移を示しています。2008年の世界金融危機から2021年末までの間、米国株式は概ね右肩上がりで推移してきたことがわかります。2020年の年初には新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、世界的な景気後退懸念から大きく株価が下落する局面がありましたが、一時的なものにとどまりました。この10年超の期間、株式市場を下支えした要因のひとつにFRBが実施した大規模な金融緩和があげられます。
図表1:フェデラルファンド(FF)金利とFRBの総資産、米国株式の推移
月次、期間:1999年1月末~2023年6月末
※米国株式:S&P500種株価指数
出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ・ジャパン作成
2008年の世界金融危機に伴う金融市場や実体経済の混乱への対応として、FRBは利下げに加えて、民間の金融機関が保有する国債等を買い取ることで市場に資金(流動性)を潤沢に供給する量的金融緩和を実施しました。FRBの総資産を見ると短期間で倍以上に膨れ上がったことが見てとれます。その後、景気回復等を背景に、2013年12月のFOMC(連邦公開市場委員会)にて2014年1月からのテーパリング(量的緩和縮小)が決定され、2015年12月に利上げが実施される等、金融政策の正常化に向けた政策の転換が徐々に進みました。
しかしながら、2020年のコロナショックによる世界的な経済活動の混乱を受けて、再び利下げと大規模な流動性の供給が実施されました。このような大規模な金融緩和を続けた結果、FRBの総資産は2008年の約9,000億ドルから2021年末には約9兆ドルまでに膨れ上がっています。一方で2021年以降、新型コロナウイルスの感染拡大による影響や、ロシアによるウクライナ侵攻等の地政学的な事象を背景とするサプライチェーンの混乱等に加えて、これまでの金融緩和の影響等により物価は大きく上昇しました。物価を抑制するため、金融政策も金融緩和から強烈な金融引締めへと大転換が進み、その結果、2022年の米国株式は年間で19.4%下落となりました。このように、金融政策と株価には強い関係性が見て取れます。
図表2は米国の消費者物価指数(CPI)と米国の景気先行指標として注目されているISM(全米供給管理協会)製造業景況指数を示しています。FRBは中央銀行の使命として、インフレを抑制するために急ピッチな利上げを2022年3月より続けてきていますが、急激な金利上昇は株式をはじめとした様々な資産価格にとってマイナスであり、実体経済においてもISM製造業景況指数※が50を割り込む等、景気の見通しは今後も悪化する懸念が残ります。一方で、失業率は低水準にあり、人手不足を背景とした賃金上昇がインフレ率を押し上げていることからFRBのパウエル議長は「インフレ率を2%に戻すにはまだ長い道のりがある」と2023年7月のFOMCで発言しています。根強いインフレと景気後退リスクのはざまで、FRBは難しい判断を迫られる可能性が高くなっており、今後の政策運営に注目が集まっています。
図表2:米国の消費者物価指数(CPI)と景況指数の推移
月次、期間:1999年1月末~2023年6月末
※米国ISM製造業景況指数は全米供給管理協会が算出する製造業の景況を示す指数で、数値が50を上回ると景気拡大、下回ると景気後退と解釈されます。
出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ・ジャパン作成
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