Article Title
米国株式投資戦略 企業景況感の悪化が如実に表れた速報指標
田中 純平
2019/05/30

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

トランプ米大統領が制裁関税第3弾を発動し、さらに制裁関税第4弾の発動も示唆して以降、おそらく最も速報性の高い米国5月PMI(購買担当景気指数)が5月23日に発表されました。内容は大方の予想よりも悪い内容で、特に米国製造業PMIは116か月ぶりの低水準となりました。PMIは景気先行性の高い指標であるため、景気の下振れリスクが高まっていると言えます。



Article Body Text

企業景況感が大幅に悪化

5月23日に米国5月PMI(速報値)が発表されました。このPMI(購買担当景気指数)はIHS Markitが企業を対象に毎月行われる調査結果に基づいており、生産高や新規受注、在庫水準、雇用状況、購買価格などについて業界横断的にヒアリングを行って算出されます。PMIは0から100の間で変動し、50.0は「前月から横ばい」を表し、50.0を超えると前月比で改善、50.0未満は悪化や減少を表します。つまり、景況感の改善と悪化の分かれ目は50.0となります。直近発表された米国5月PMI(速報値)は、5月13日から5月22日の調査結果に基づいているため、米中貿易戦争の悪化(制裁関税第3弾発動とファーウェイ規制強化等)を反映した最新の経済指標と言えます。PMIは製造業とサービス業ごとに算出されますが、いずれの指数も前月から大幅な低下となりました。5月米国製造業PMI(速報値)は50.6と市場予想の52.6を下回り、前月の52.6からも大きく低下した一方、5月米国サービス業PMI(速報値)も50.9と市場予想の53.5を下回り、こちらも前月の53.0から急低下しました。Markitによれば、この水準は実質GDP成長率(年率換算)で+1.2%に相当するため、2019年1‐3月期実質GDP成長率の速報値である+3.2%(前期比年率、季調済み)からは急減速となります。米中貿易戦争は製造業だけでなく、サービス業にも悪影響を及ぼしていると言えます。

 

 

制裁関税は米国家計も圧迫

NY連銀によれば、2018年に発動された制裁関税は、米国家計に対して年間414ドルのコストアップにつながったと試算しています。さらに、今年5月に発動された制裁関税第3弾によって、米国家計に対する年間コストは831ドルに増加することが見込まれています。コストアップは消費意欲を減退させるだけでなく、物価上昇圧力にもつながるため、米国株式市場にとってますます逆風となります(NY連銀は10%の追加関税引き上げによって、輸入が43%減少したとも試算)。米中貿易戦争の長期化が想定される中、今後もマクロ経済指標に対しては下振れ圧力がかかることが予想されます。米国株式市場は適温相場等を背景に年初来で大きく上昇しただけに、その反動安が警戒されます。

 

 


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


USスチール買収審査は分断の象徴か!?

日銀植田総裁は想定よりハト派だった

スイス中銀はマイナス金利へと向かうのか?

企業倒産件数が示す変化

史上最高値を更新したS&P500に死角はないのか?

日本企業の問題点 法人企業統計より