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ボストン連銀総裁、シェアオフィス事業モデルに警告
梅澤 利文
2019/10/04

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概要

ローゼングレン総裁は米国経済は底堅いと見ており、金融政策は据え置きを支持しています。むしろ低金利の長期化により金融安定化へのリスクが高まることに対して警告することが主旨であったと思われます。しかし、名指しは避けたものの、ウィーワークへの懸念が高まる中、シェアオフィス市場への苦言に尾ひれがつく可能性も懸念されます。



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シェアオフィス事業モデル:ボストン連銀総裁が金融リスク生む可能性を指摘

米国の追加金融緩和に慎重姿勢である米ボストン連銀のローゼングレン総裁は2019年9月20日、ニューヨークで「経済状況の評価と金融安定化のリスク」と題して講演しました。公表された講演の資料によると、ローゼングレン総裁は商業用不動産の分野で金融安定性に対して新たなタイプの潜在的リスクを生まれつつあると述べ、そうした市場モデルの一つとして、シェアオフィス事業への懸念を示しました。

ローゼングレン総裁の講演資料には、当然のことながら、名前は見当たりませんが、シェアオフィスといえば草分けであるウィーカンパニーが念頭にあったことと思われます。

米シェアオフィス「ウィーワーク」を運営するウィーカンパニーの新規株式公開(IPO)が評価額の問題などで難航(IPO目論見書を正式に取り消す手続きに入った)、年内上場を条件に60億ドルの与信枠を確保する計画への懸念などから社債価格は急落しています(図表1参照)。

 

 

次の点に注目:シェアオフィス事業、低金利、ミスマッチ、IPO

ローゼングレン総裁は米国経済は底堅いと見ており、金融政策は据え置きを支持しています。むしろ低金利の長期化により金融安定化へのリスクが高まることに対して警告することが主旨であったと思われます。しかし、名指しは避けたものの、ウィーワークへの懸念が高まる中、シェアオフィス市場への苦言に尾ひれがつく可能性も懸念されます。

ローゼングレン総裁は低金利長期化の弊害にとして、レバレッジの上昇、キャップレート(不動産収入から管理費など諸経費を引いた純収益と不動産価格の比率)の低下を挙げています。レバレッジの高さは不況の原因ではなく、不況時に高レバレッジであるとより深刻な不況に陥る点を懸念しています。低金利に伴うキャップレートの低下は、不動産価格の過大な上昇の呼び水となる点で懸念を指摘しています。

これらの懸念に加え、特にシェアオフィス事業の問題として、空室率の上昇を懸念しています(図表2参照)。シェアオフィス事業は不動産所有者から、ウィーワークなど親会社がビルなどを長期リース契約して、小口にして新興企業に短期で再リースする形態です。仮に不況などで空室率が上昇すると、賃料の減少により親会社が不動産所有者にリース料を支払えないリスクに注意を促しています。長期リース契約と短期の再リースのミスマッチが不況などにより損失が拡大する場合をもっとも懸念していると見ています。

次に、シェアオフィス事業に限りませんが、ストラクチャーにも懸念を示しています。シェアオフィス事業の親会社は特別目的会社が資金調達を行い、親会社は債務を保証しない(ノンリコース)運営形態が通常だからです。不動産所有者に対し、ストラクチャーによるリスクを喚起しています。

ウィーワークが直面しているのは、IPOが予定通り行われなかったことによる資金繰りなど個別企業の問題で、ローゼングレン総裁の指摘とはやや異なる面もありそうです。しかし、当面は落ち着きを見守る必要もあると考えます。不動産ポートフォリオにおけるシェアオフィス事業へのエクスポージャーは、やや抑えた方が良いのかもしれません。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)

運用経験年数 4年

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