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失業給付「失効」で米国個人消費に下振れリスク
田中 純平
2020/07/17

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概要

米国では新型コロナウイルスの感染拡大に伴う対策として、連邦政府による支援金と失業給付の増額が個人に支給されたことから、戦後最悪とされる景気後退の最中で4月以降の個人所得は逆に大きく増加する結果となった。しかし、この失業給付の増額は7月末で失効する予定であり、連邦議会が追加対策を講じなければ年後半の個人消費が下振れする可能性がある。



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失業前の賃金を上回る「異例」の失業給付

米国では新型コロナウイルスの感染拡大に伴う対策として、総額2.2兆ドルに及ぶコロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)がトランプ大統領の署名によって3月27日に成立した。この法律によって、連邦政府による個人への支援金や1週間で一律600ドルの失業給付の増額が支給されることになった。このため、4月の米国個人所得は前年同月比で11.9%増となり、戦後最悪とされる景気後退の最中、逆に個人所得の増加率が加速するという極めて希な現象が起こった(図表1)。

中でも「異例」とも言えるのが手厚い失業給付だ。失業前に全米賃金の中央値である1週間当たり957ドルを得ていたとすると、カリフォルニア(CA)州では州政府から同450ドルの失業給付が支給されるほか、CARES法によって連邦政府から同600ドルの特別失業給付が得られる(図表2) 。この結果、失業給付の合計額は同1,050ドルとなり、失業前の賃金を上回ることになる。また、最低賃金で雇用されていた場合はさらに手厚くなり、CA州では失業前の最低賃金が同480ドルに対し失業給付の合計額は同817ドルと、実に70%もの収入増になる。失業前の賃金が低いほど失業給付が相対的に手厚くなる構造は、テキサス州やニューヨーク州でも同様だ。

 

 

失業給付の増額は今月末で失効予定

しかし、逆に言えば特別失業給付が失効した場合の影響が大きくなるのが、失業前の賃金が低かった失業者になる。賃金水準を業種別にみると、小売やレジャー・ホスピタリティが相対的に低くなっており、これらの業種はロックダウン(都市封鎖)によって失業者を大量に抱えた業種でもある(図表3)。このまま失業給付の増額が7月末で失効した場合、多くの失業者の個人所得が急減することになりかねない。連邦上院は休会明けの来週20日から失業給付増額の延長など、追加の景気刺激策について議論を再開させる予定だが、民主党と共和党との間で意見の隔たりは依然として大きく、残された時間も限られている。この先、数週間が正念場だろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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