Article Title
米バイデン政権「ブルーウェーブ」の死角
田中 純平
2021/01/14

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


1月5日の米ジョージア州における上院決戦投票の結果、米民主党が大統領選と上下両院を制する「ブルーウェーブ(青い波)」となった。この結果、バイデン次期米大統領が掲げる積極的な財政政策が連邦議会で成立しやすくなるとの見方から、株式市場は上昇基調が続いている。しかし、民主党の法案が全て成立するわけではないので注意が必要だ。



Article Body Text

議事妨害(フィリバスター)を阻止するには60議席が必要

上院の定数は100議席であるため、51議席あれば過半数を獲得したことになる。今回の選挙では民主党50議席、共和党50議席となったため、これだけではどちらも過半に届かないわけだが、上院の議決で票数が同数となった場合は、カラマ・ハリス次期副大統領が決定票を投じることができるため、実質的に民主党が過半を獲得したことになる。

しかし、上院では議員の発言時間に制限が設けられていないため、議会終了まで審議を引き延ばし、法案を議事妨害(フィリバスター)することが可能になる。これを阻止できるのが討議終結決議(クローチャー)であり、60議席以上の賛成を得る必要があるが、民主党の議席はこの60議席には及ばない。つまり、民主党の法案を通すためには超党派での合意が不可欠になる。

 

「財政調整措置」を使用すれば民主党単独で可決することも可能だが…

その一方で、予算決議において「財政調整措置」と呼ばれる制度を活用すれば、(歳入・歳出に関するものであれば)民主党単独で法案を通すことは可能になる。しかし、「財政調整措置」は一会計年度につき一度しか使用できないほか、民主党内での調整も必要になる。

バイデン政権下で「予算調整措置」を主導するのが、新上院予算委員長に指名された急進左派のバーニー・サンダース上院議員だ。サンダース氏は米メディアのインタビューに対し、「財政調整措置」を積極的に活用する方針を発表しており、新型コロナウイルス対策や景気刺激策に加え、インフラやクリーン・エネルギー政策などをまとめることに強い意欲を示した。

ここでカギを握るのが、民主党内における中道派のジョー・マンチン上院議員とキルステン・シネマ上院議員、ジョン・テスター上院議員の動向だ。「財政調整措置」においてあまりにも左派的な法案になってしまうと、中道派の民主党議員らが廃案に持ち込む可能性があるからだ。特にマンチン氏は石炭産地であるウェスト・バージニア州の上院議員であるため、気候変動対策を含めた法案については反対の立場を取りやすい。「財政調整措置」の発動には、民主党内における融和が不可欠になる。

 

1月14日にはバイデン次期大統領が追加景気対策案を発表予定

バイデン次期大統領は、1月14日に追加景気対策案を発表する予定となっている。報道では2兆ドル規模になるとも言われているが、予算の権限はあくまで連邦議会にあるため、次期大統領の発言よりも連邦議会の審議を見守る必要がある。分断された民主党をうまくまとめることができるか、バイデン次期大統領の手腕が試される。

 

 


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


USスチール買収審査は分断の象徴か!?

日銀植田総裁は想定よりハト派だった

スイス中銀はマイナス金利へと向かうのか?

企業倒産件数が示す変化

史上最高値を更新したS&P500に死角はないのか?

日本企業の問題点 法人企業統計より