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日銀の矛盾が招く円安・物価上昇
市川 眞一
2022/03/25

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概要

FRBは利上げに踏み切り、インフレ抑制に舵を切った。一方、日銀は物価上昇圧力を「コストプッシュ型」とした上で、「現在の金融政策を修正する必要性を意味していない」(黒田東彦総裁)との姿勢を維持している。この日米中央銀行の政策の違いは、結局のところ為替を円安へ誘導し、日本経済は「コストプッシュ型」インフレのループから抜けられなくなるのではないか。



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FRBは姿勢転換:米国では市場もインフレを織り込む

3月21日、全米企業エコノミスト協会(NABE)の第38回年次総会で講演したFRBのジェローム・パウェル議長は、「金融政策を中立的レベルへ迅速に戻すべき明白な必要性が存在する」と語った。今月15、16日に25bpの利上げに踏み切ったFRBは、明らかにインフレ抑止へと姿勢を転換している。

このFOMCに伴い公表された参加メンバー16人の経済見通しでは、2022年末のFFレートについて、5人が1.75〜2.00%になるとの推測を提示し、この水準が全体の中央値となった。ちなみに、昨年12月14,15日の前回FOMCでは、2022年末のFFレート見通しの中央値は0.75〜1.00%だ。

年内に行われるFOMCは、5、6、7、9、11、12月の計6回なので、今回の見通しを素直に読むのであれば、25bpずつなら毎回利上げが行われるとの含意になる。さらに、2023年についても、FFレート見通しの中央値は2.75〜3.00%とされ、計100bpの利上げが行われるとの観測が示された。

FRBの姿勢転換を背景として、物価連動国債(TIPS)と10年国債の利回りから算出した市場の織り込む期待インフレ率は、足下、2.9%台へと上昇したが、実際のコア消費者物価(CPI)の動きとは依然として大きな乖離がある(図表1)。ただし、過去30年間におけるコアCPI上昇率は年平均2.3%、直近10年間だと2.1%に止まることから見て、マーケットも物価のトレンドが大きく変化したことを認識しつつあると言えよう。

自縄自縛の日銀:高まる理想的でないインフレのリスク

総務省が18日に発表した2月の消費者物価統計では、生鮮食品を除くコア指数は前年同月比0.6%の上昇だった(図表2)。ただし、携帯電話大手3社が昨年3月に導入した新サービスの影響を除けば、同2.3%の値上がりだ。4月以降は日銀が目標とする2%を超える可能性が高まっている。

しかし、17,18日の政策決定会合で日銀は金融政策の変更を見送った。会合後、記者会見に臨んだ黒田総裁は、「コストプッシュ型の物価上昇は、企業収益悪化や家計の実質所得の減少を通じて景気の下押し要因」と語っている。

もっとも、この日銀の姿勢は大きな矛盾を孕んでいるのではないか。日米の金融政策の違いは為替市場をドル高・円安方向へ導く可能性が強い。円安が進めば、輸入物価が上昇し、さらに「コストプッシュ型」インフレ圧力が強まるだろう。

日銀が政策修正の可能性を語れない最大の要因は、2016年9月の政策決定会合で導入した「イールドカーブ・コントロール」ではないか。10年国債利回りのターゲットを引き上げる場合、既発債の保有者だけではなく、国際的マクロ系ファンドから強烈な国債への売り圧力を受ける可能性がある。

日銀が内需主導型の理想的な「2%の物価目標」に拘るなら円安が進み、理想としないインフレに陥りかねない。自縄自縛の日銀にこのトラップからの脱出が難しいとすれば、そのリスクに備えたヘッジ手段を講じるべきではないか。


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市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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