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- 市場は米国の物価に楽観的過ぎるのではないか?
7月26、27日のFOMCで、FRBは75bpの利上げを実施した。市場は先行きの景気減速と物価安定を織り込み、イールドカーブがフラット化している。原油価格が現水準で推移すれば、エネルギーによる物価への影響は2023年1‐3月期にはニュートラルになるだろう。しかし、国際社会の分断により資源の最適配分が阻害される結果、高いインフレ率が常態化するのではないか。
市場の見方:先行きは2%台の物価上昇率を見込むが・・・
7月27日、FOMC後に発表された声明の冒頭には、米国景気が「やや弱まっている」との見解が示された。ただし、雇用は堅調であり、ウクライナ戦争による物価への影響が不透明なことから、6月に続き75bpの利上げが行われたのである。FRBの最優先課題がインフレの抑制であることは間違いない。
もっとも、10年国債とインフレ連動債の利回りから算出したマーケットの期待インフレ率は2.4%程度であり、2000年以降の平均的なレンジの範囲内に収まっている(図表1)。背景にあるのは、1)原油価格が現水準で推移すれば、2023年1‐3月期にはエネルギーによる物価へのインパクトがニュートラルになること、2)米国景気の減速により、需給関係の緩和が見込まれること・・・の2点があるのではないか。つまり、市場は1990年代以降の物価安定が崩れておらず、FRBが2023年中にも金融緩和に転じると予測しているようだ。
ただし、歴史的な労働力不足に直面する米国の場合、賃上げ率が現在の5%程度の水準を維持する可能性は否定できない。サービス産業を中心に労働コストは最終製品に価格転嫁されるため、コア消費者物価上昇率が2%台へと低下するシナリオは考え難いのではないか。
分断の時代:資源の効率的配分は困難に
今後の焦点の1つは、長期金利の落ち着き処だろう。現在のイールドカーブは、先行きの物価上昇率が2%台前半まで低下するとの想定の下で形成されているようだ。
1991年12月に旧ソ連が消滅して以降、グローバリゼーションの下、米国はインフレから解放された。韓国、ASEAN、中国などが低い労働コストを武器に工業化し、安価な製品を供給したことが要因の1つだ。グローバリゼーション、即ち世界市場の統合は、資源の最適配分を可能にした。1990〜2019年における米国の消費者物価の平均上昇率は2.2%であり、1961〜1989年の5.2%を大きく下回っている(図表2)。
物価安定の配当としてもたらされたのが、長期金利の趨勢的低下に他ならない。10年国債の平均利回りは、1980年代10.59%、90年代6.64%、2000年代4.41%、2010年代2.36%であり、30年間で大きく水準を変えた。
しかし、グローバリゼーションの時代は終わり、「分断の時代」を迎えているとすれば、物価に関する前提は変化したのではないか。消費者物価の上昇率が仮に4〜5%の状態を続ける場合、長期金利の居場所は大きく変るだろう。この点について、市場はインフレの鎮静化に極めて楽観的だ。
国際社会が「分断の時代」に突入したことを考えると、今後、米国主導によるグローバリゼーションの下で進んだ世界規模での効率的な資源配分は難しくなると見られる。しかしながら、FOMC前後の動きを見る限り、市場はまだ時代の変化に追い付いていない可能性がある。今後のリスク要因と言えよう。
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