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- 1ドル=140円も通過点
ドルの実質実効レートが上昇している。インフレ圧力の緩和を内政上の最優先課題とする米国のジョー・バイデン政権は、輸入物価の抑制につながるドル高を歓迎しているようだ。日米通商摩擦が先鋭化していた1980、90年代と異なり、米国が円をターゲットにしているとは考え難い。しかしながら、日米の中央銀行が真逆の金融政策を採る以上、円安の継続は不可避だろう。
ドル高:米国のインフレ圧力緩和には好材料
FRBによれば、7月末におけるドルの実質実効レートは118.27になり、2002年7月に記録した直近の高値である115.96を超えた。1971年8月15日のニクソンショックで金とドルの兌換が停止された後、スミソニアン体制が崩壊して1973年2月14日よりドルは変動相場制へ移行したが、その後の実質実効レートの最高値は1985年3月の132.01だ。現在は1980年代前半に次ぐドル高局面になっている。
背景には、インフレ圧力の緩和を内政上の最優先課題と考えるバイデン政権及びFRBの姿勢があるだろう。最も近い米国のインフレ局面は1979~81年の第2次石油危機だが、この時は1979年8月6日に就任したポール・ボルカー議長の下、FRBは政策目標をFFレートの誘導水準からマネーストックへ変更、強烈な金融引き締めを行った。それは、為替をドル高に誘い、物価の沈静化に貢献したと言える(図表1)。
現在、米国の労働需給は逼迫しており、平均時給上昇率が前年同月比で5%を超えるなど、高い賃上げ率が続いている。つまり、エネルギー価格のみならず、国内における供給能力の限界が強いインフレ圧力の背景だ。輸入の拡大が避けられないなかで、強いドルは輸入コストを抑制し、物価上昇圧力を緩和する手段と言えよう。
バイデン政権、FRBがあからさまにドル高政策を明言する可能性が高いとは思えないが、FRBによる積極的な利上げの副反応としての為替の動きが、物価に及ぼす影響については十分に検討していると考えられる。
円安:狙い撃ちではなく金融政策の違い
ドルの実効レートは、米国と通商取引の多い26通貨を貿易額により加重平均して指数化したものだ。足下、最もウェートが高いのはユーロの19.6%だが、単独国としては人民元が14.8%に達する。一方、1980年代に20%のウェートだった円は、6.0%まで存在感を後退させた。今年前半の米国の国別輸入額を見ると、中国、メキシコ、カナダが突出しており、日本は595億ドルで中国の3分の1に止まっている(図表2)。
1980、90年代、米国にとって対日貿易赤字は大きな課題であり、為替が不均衡是正の手段とされることも少なくなかった。ビル・クリントン大統領就任直後の1993年2月19日、ワシントンのナショナル・プレスクラブで講演したロイド・ベンツェン財務長官は、「一層のドル安を臨むか」と質問を受け、「一段のドル安ではなく、一段の円高を望む」と回答、その理由を「米国の輸出促進につながるから」と説明した。
現在の日本経済の存在感から見れば、米国が円を狙い撃ちすることはないだろう。ただし、米国がインフレ圧力緩和に向け「強いドル政策」を採っているとすれば、ドルの実質実効レートが1985年の高値を目指す可能性は否定できない。その際、日銀とFRBが真逆の金融政策を採っていることにより、円安に歯止めが利かなくなるリスクに注意が必要だ。
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