Article Title
トルコ中銀、今後の政策運営のポイント
梅澤 利文
2019/02/20

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

チェティンカヤ総裁は金融政策の変更を否定していることもあり、預金準備率の引き下げが通貨リラに与えた影響は限定的でした。確かに目先、利下げなど金融政策の変更は考えにくいものの、市場の一部には将来の利下げ観測も見られます。早ければ、年後半にトルコ中銀の姿勢に変化があるかもしれませんが、次の点で、当面は据え置きがメインシナリオと思われます。



Article Body Text

トルコ中央銀行:預金準備率を引き下げ、貸出促進が目的

トルコ中央銀行は2019年2月16日に預金準備率の引き下げを公表しました。引き下げ率は満期などにより異なりますが、0.5%~1.0%と声明で示されています。

なお、預金準備率の引き下げに先立ち、トルコ中銀のチェティンカヤ総裁が、必要な流動性供給に預金準備などを使用する可能性を示唆すると共に、(預金準備率の引き下げは)金融政策の変更を意味しないと説明しています。

 

 

どこに注目すべきか:預金準備率、インフレ率、成長悪化、選挙

チェティンカヤ総裁は金融政策の変更を否定していることもあり、預金準備率の引き下げが通貨リラに与えた影響は限定的でした(図表1参照)。確かに目先、利下げなど金融政策の変更は考えにくいものの、市場の一部には将来の利下げ観測も見られます。早ければ、年後半にトルコ中銀の姿勢に変化があるかもしれませんが、次の点で、当面は据え置きがメインシナリオと思われます。

まず、トルコ中銀の利下げの判断基準を確認します。チェティンカヤ総裁は価格動向と、インフレ率に関連する各種指標の「明確な改善」が必要と説明しています。したがって例えば前期の高インフレの影響で指数が前期比で大幅に低下するといったテクニカル要因や、原油価格等の下落を反映した外部要因は「明確な改善」を意味しないと述べています。

1月の消費者物価指数(CPI)は前年比20.35%と依然高水準で利下げには程遠いレベルと見ています。ただ、リラの安定に伴いインフレ率が低下(改善)傾向であり、リラの動向次第では、インフレ率の一段の低下も予想されます。

また、インフレ率に関連する指標の中に、改善が見られるものもあります。インフレ率上昇は通貨安が主な背景と見られますが、昨年新興国通貨が下落した際には、経常収支が大幅な赤字の国の通貨が売られる傾向が見られました。トルコの経常赤字対GDP(国内総生産)比率も、過去数年マイナス(赤字)が拡大傾向でしたが、足元改善が見られます(図表2参照)。チェティンカヤ総裁も輸出や観光客(トルコ訪問)の回復が背景と述べてはいます。一方で、成長率の急速な悪化が経常赤字縮小の主な要因と指摘しています。

成長率の低下はトルコ中銀の金融緩和を後押しするというより、取り扱い注意な面があります。トルコ中銀が金融政策を変更するには、不要なリラ安を防ぐために、市場との対話が非常に大切です。昨年のリラ安局面では経済成長を求める政治の介入がトルコ中銀の判断を遅らせた記憶が残るだけに細心の注意が求められるからです。

政治の介入の試金石となりそうなのが、3月末の統一地方選挙です。トルコ中銀のインフレ目標は5%±2%で、現在のインフレ率は上限の3倍近い水準です。少なくともインフレ目標上限に明確に近づく展開でなければ、利下げは考えにくいと思われます。その時期は早くても年後半と見られます。

トルコ中銀の金融政策決定会合は次回が3月6日、その次が4月25日に予定されています。チェティンカヤ総裁が明確な金融政策を運営するかに注目しています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


FOMC:市場予想通りの利下げながら全体にタカ派

ECB:声明文はハト派ながら会見はタカ派も匂わす

11月の米CPI、市場予想通りの裏側にある注意点

11月の米雇用統計、労働市場の正常化を示唆

米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応