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ECBは7月と9月を合成した金融緩和戦略か?
梅澤 利文
2019/07/26

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概要

ECBが声明で金融緩和の姿勢を強めたものの、市場では利回りが上昇するという反応でした。事前予想通りの緩和姿勢に過ぎなかったこと、そして既に市場では今回の内容は織り込んでいた可能性があります。ただ、ユーロ圏の景気後退への懸念を示さなかったドラギ総裁の景気認識などに反応して、国債市場で利回りが上昇した面も見られます。



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ECB政策理事会:フォワードガイダンスを現行またはそれ以下に変更、今後の利下げ示唆

欧州中央銀行(ECB)は2019年7月25日に開いた政策理事会で市場予想通り主要政策金利を据え置きました。一方、声明で政策金利の方針を示すフォワードガイダンスは、従来の20年半ばまで現行水準で据え置く方針から、20年半ばまで現行水準もしくはそれを下回る水準にすると変更し、今後の利下げを示唆する内容となりました。

ただ、今後の利下げを示唆する声明文が公表されたものの、記者会見でECBのドラギ総裁がユーロ圏の景気の底堅さに言及したことなどから、ユーロ圏の国債利回りは会見後、概ね上昇(価格は下落)しました。

 

どこに注目すべきか:フォワードガイダンス、ドイツ景況指数、賃金

ECBが声明で金融緩和の姿勢を強めたものの、市場では利回りが上昇する反応でした。事前予想通りの緩和姿勢に過ぎなかったこと、そして既に市場では今回の内容は織り込んでいた可能性があります。ただ、ユーロ圏の景気後退への懸念を示さなかったドラギ総裁の景気認識などに反応して、国債市場で利回りが上昇した面も見られます。

まず、誤解を避けるために、ECBの姿勢を再確認すると明確な金融緩和の示唆と見ています。例えば、利下げに向けフォワードガイダンスを変更したこと、債券購入再開の可能性の示唆、金融緩和が長期化した場合の銀行への副作用への備え(詳細への言及は回避するも)などが挙げられます。目標を上回るインフレ率を一定期間容認する可能性に言及したことも、中長期的には金融緩和政策と見られます。


そこで、注目された景気認識を取りあげます。市場ではドイツの景気後退が意識(懸念)されています。ドイツ中央銀行は4-6月期の成長率がマイナスとなる可能性を示唆しています。また、24日に公表された7月のドイツ製造業購買担当者景気指数(PMI)は43.1と市場予想を下回りました(図表1参照)。政策理事会の数時間前に公表された独Ifo企業景況感指数は95.7と、2013年以来の低水準でした。これらを受け、市場はECBが景気後退懸念を共有することを期待(希望?)していましたが、ドラギ総裁は会見で景気後退の可能性は低いと述べた背景として次の要因が考えられます。

米中貿易問題などを背景とした不確実性により、輸出に関連する製造業関連の指数は悪化傾向です。しかし、内需は比較的堅調です。雇用市場は底堅く推移しており、個人消費の下支え要因と見られます。ドラギ総裁が指摘するようにユーロ圏の名目賃金が上昇傾向で、過去平均を上回っています(図表2参照)。軟調な製造業と、底堅い消費や雇用の二局化動向をできる限り見定めたい意向と見られます。

また、そもそも中央銀行が前のめりで景気後退懸念を表明すれば、余計に不安をあおる恐れもあり、慎重な言葉使いになったことも考えられます。加えて、次回9月のECB会合のタイミングで公表される四半期ごとの経済成長を確認したいことや、何と言っても翌週に控える米連邦公開市場委員会(FOMC)を見定めたい気持ちもあるように思われます。

9月のECB政策理事会での0.1%利下げの準備は整えたと見られます。債券購入など他の金融緩和拡大政策は、二局化経済の動向や米国の金融政策を見定めて具体策を練る必要から、今回は時間を稼いだ可能性があります。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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