Article Title
ジョージア州上院選挙と市場の反応
梅澤 利文
2021/01/07

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

年初注目のイベントであるジョージア州上院決選投票の結果を受け、バイデン政権による追加経済対策や、インフラ投資、クリーンエネルギー政策の推進への期待が見られます。選挙結果後の市場の反応を見ると金利は長期セクター中心に上昇(価格は下落)しました。株式市場ではハイテク企業を中心に構成されるナスダックは下落しましたが、全般に上昇しました。



Article Body Text

ジョージア州上院決選投票:民主党が2議席当確で大統領、上院、下院は民主党に

米連邦議会の上院議会で民主党が多数派を獲得することが確実となりました。2021年1月5日に行われたジョージア州上院議会決選投票の開票結果(開票率99%)によると、民主党のウォーノック氏が得票率50.8%(共和党のローフラー氏は49.2%)、もう一方の議席では、民主党のオッソフ氏が50.4%(共和党のパーデュー氏が49.5%)といずれも僅差ながら当選確実となりました。

この結果、民主と共和の両党は上院で50議席ずつとなる見込みですが、採決で50対50となった場合、民主党のハリス次期副大統領が最後の一票を投じることができるため、事実上トリプルブルーが実現することとなります。

 

どこに注目すべきか:上院決選投票、コロナ、議事妨害、党議拘束

年初注目のイベントであるジョージア州上院決選投票の結果を受け、バイデン政権による追加経済対策や、インフラ投資、クリーンエネルギー政策の推進への期待が見られます。選挙結果後の市場の反応を見ると金利は長期セクター中心に上昇(価格は下落、図表1参照)しました。株式市場ではハイテク企業を中心に構成されるナスダックは下落しましたが全般に上昇しています。

ここまでの市場の反応を見ると、株式市場ではジョージア州選挙という不透明要因を消化したこと、財政政策期待、極端な国債利回りの上昇は回避されたことなどから上昇傾向が維持されました。なお、ナスダック総合は金利上昇や企業への規制強化などが懸念されたと見られ下落しました。

米国債市場では、短期セクターの動きは小幅な利回り上昇にとどまる一方で、財政政策拡大観測などを受け長期セクターの利回りは上昇しました(図表1参照)。ただ、今のところ極端な利回り上昇とはなっていません。この背景として次の点が考えられます。

まず、当面は新型コロナウイルス対策にエネルギーを費やすと見られることです。バイデン氏は公約で、ウイルス対策、環境、規制強化、富裕層などへの増税を訴えましたが、当選早々ながら2年後には中間選挙を控え、民主党内でも左派と右派で温度差がある増税より、低水準に留まるワクチン接種を拡大させる政策に当面は重点を置くと思われます。

2点目は僅差の多数派に過ぎないことです。民主党が多数となったことで、閣僚人事やスタッフの上院における指名承認などはスムーズになると見られます。しかし議会運営は困難なままとなることも想定されます。上院では議事妨害(フィリバスター)策の制度があり、法案を通したい与党側がこの議事妨害を打ち切って採決に移るには60議席が必要だからです(財政調整法は例外)。トランプ政権は中間選挙前まで共和党が議会と大統領を占めていましたが、18年度本予算成立に苦労したのは民主党の議事妨害によるものでした。民主党の50議席は議事妨害を止めるには不十分です。

米国では議会の採決などで党議拘束が緩やかな点も考慮に入れる必要がありそうです。上院で50議席を確保したとしても、民主党議員が一人でも反対にまわれば過半数を失う計算です。増税など利害が複雑に絡む法案で一枚岩が保てるかなど、これからの議会運営を見守る必要があることも、市場は意識しているのかもしれません。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米CPI、インフレ再加速懸念は杞憂だったようだが

注目の全人代常務委員会の財政政策の論点整理

11月FOMC、パウエル議長の会見で今後を占う

米大統領選・議会選挙とグローバル市場の反応

米雇用統計、悪天候とストライキの影響がみられた

植田総裁、「時間的に余裕がある」は使いません