Article Title
スコットランド議会選、独立派が過半数となるも展開は不透明
梅澤 利文
2021/05/11

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

英国は欧州連合(EU)から離脱しましたが、連合王国を構成するスコットランドはEU残留が根強く支持されています。そうした中、英国からの独立を巡る住民投票の実施を支持するスコットランド民族党(SNP)が単独で過半数を獲得できるかが注目された今回の選挙では1議席及びませんでした。独立の気運は後退したと見られます。



Article Body Text

スコットランド議会選挙:SNPは第1党を確保するも単独で過半数に届かず

英国(連合王国)を構成する4地域の1つであるスコットランドで2021年5月6日に地方議会選挙が実施されました。開票の結果、選挙公約として23年末までに英国からの独立を巡る2度目の住民投票の実施を掲げている与党のスコットランド民族党(SNP)が全129議席のうち64議席を獲得しました(図表1参照)。第1党ながら、単独での過半数に届きませんでしたが、改選前議席を3議席上回りました。

なお、SNP同様に住民投票の実施を支持する緑の党も8議席を獲得したため、独立派が過半数となりました。

どこに注目すべきか:スコットランド、独立、住民投票、英国ポンド

英国は欧州連合(EU)から離脱しましたが、連合王国を構成するスコットランドはEU残留が根強く支持されています。そうした中、英国からの独立を巡る住民投票の実施を支持するSNPが単独で過半数を獲得できるかが注目された今回の選挙では1議席及びませんでした。独立の気運は後退したと見られます。

まず、スコットランドの最初の住民投票を振り返ると、今日のヘッドライン14年9月19日号等で、その住民投票を取り上げています。結果は独立賛成が約45%、反対が約55%で独立は否定されました。当時のキャメロン首相がスコットランドの自治権拡大を約束するなど、異例の対応で残留に努めた結果、独立を阻止できたという経緯があります。その意味で最初の住民投票は僅差の勝負であったといえます。

SNPは2度目の住民投票の実施を公約としています。英国がEU離脱を完了させる中、EU残留を支持するスコットランドの声を受けたものでしょう。SNPは過半数に1議席足りませんでしたが、緑の党と合わせれば独立派が過半数という格好は整っています。

しかし、市場の反応を見ても(図表2参照)、英国ポンドは上昇傾向を維持するなど、独立の気運は後退したと見られます。選挙の結果(独立)を担保する住民投票の実施には英国議会の承認が必要とみられます。勝手に行ったのでは世論調査と変わらないからです。正式な住民当票の怖さを知る英国のジョンソン首相は住民投票の要請を一貫して拒否する構えです。英国政府との交渉を優位に進めるにはSNPの単独過半数が望ましいと考えられます。緑の党との寄り合い所帯の独立派を形成しても、一緒になれない点などを交渉で問われれば不利に働くことが懸念されます。

なお、承認が取れない場合SNPは法廷闘争を仕掛ける可能性もありますが展開は全く不透明で長期化も想定されます。

今回の選挙は住民投票より、その準備プロセスの開始を占う面がありました。SNPの過半数割れで当面、スコットランド独立がポンドの下押し要因となる懸念は、市場の動きを見る限り後退したと思われます。英国はワクチン接種で先行したことからポンドは回復基調でしたが、足元相場の材料としてワクチン接種の先行は賞味期限切れの印象も見られます。またスコットランドの独立問題は当面ポンドへ大きな影響を与えそうもありません。そうした中、今後のポンドの動向は、債券購入削減方針を巡る金融政策の動向が左右する展開を想定しています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


FOMC:市場予想通りの利下げながら全体にタカ派

ECB:声明文はハト派ながら会見はタカ派も匂わす

11月の米CPI、市場予想通りの裏側にある注意点

11月の米雇用統計、労働市場の正常化を示唆

米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応