Article Title
米国債務上限問題の懸念は当面回避
梅澤 利文
2021/10/08

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー

概要

米国では先月末に暫定予算が成立したことで、政府機関閉鎖の危機は当面回避されました。より深刻な米連邦法定債務上限問題は法案が上院で可決されており、こちらの問題についても当面は回避される公算です。債務上限は米国の財政規律を守るプラス面はありますが、政争の具となることもあり諸刃の剣といえそうです。



Article Body Text

米国連邦法定債務上限問題:債務上限の引き上げで合意、上院は可決

米民主党のシューマー上院院内総務と共和党のマコネル上院院内総務は2021年10月7日午前に、連邦債務の法定上限(債務上限)を4800億ドル(約53兆5800億円)引き上げることで合意したと報道されました。

なお、米上院は7日夜、債務上限を引き上げる法案を賛成50、反対48の賛成多数で可決しました。下院は来週まで休会で採決を待つこととなります。ただ、下院は民主党が多数派であり、可決が見込まれています。

仮に成立すれば、財務省が12月3日ごろまで支払い義務を遂行できるようになる見込みです。

どこに注目すべきか:暫定予算、連邦法定債務上限、デフォルト

米国では先月末に暫定予算が成立したことで、政府機関閉鎖の危機は当面回避されました。より深刻な米連邦法定債務上限問題は法案が上院で可決されており、こちらの問題についても当面は回避される公算です。債務上限は米国の財政規律を守るプラス面はありますが、政争の具となることもあり諸刃の剣といえそうです。

まず、債務上限交渉のこの数日間の動きを市場動向と共に振り返ると、期待と不安が見られました。

イエレン米財務長官は債務上限が引き上げられるなどしない場合、財務省の手許資金が尽きるのは10月18日前後と、いわゆる「Xデー」が刻一刻と近づいていました。

債務上限は19年8月から21年7月31日まで法定上限適用停止措置となっており、平易に言えば法的な上限を気にせず財政運営が可能でした。しかし、8月1日からは新たな債務上限が設定されたため、債務拡大には法定上限適用停止措置の期間を新たに設定するか、債務上限を拡大する必要がありました。このためには議会で債務上限を緩和する法案を通す必要があります。

債務上限を引き上げる法案については民主党と共和党の対立がネックとなっていましたが、6日頃から合意の機運が見られ始めました。例えば、上院共和党のマコネル院内総務はXデーを12月に先送りするため、債務上限の短期間の引き上げを支持すると表明していました。

市場の期待と不安を見る上で米短期国債(Tビル)の利回り推移を参照します(図表1参照)。満期までの期間が短いTビル(4週間)と長め(3ヵ月)の利回りを見ると、短期よりも長期の利回りが低くなる逆転が見られました。債務上限による短期的な混乱を回避して長めのTビルが選好されました。過去に債務上限問題が悪化した局面でも同様な現象が見られました。上院での可決を受け債務上限は2ヵ月ほど先送りされたことで4週間Tビル金利が大幅に低下しました。

Xデーが過ぎても債務上限が引き上げられない場合、米国は債務不履行(デフォルト)に陥る可能性がありました。今回の債務上限は小幅な引き上げで、2ヵ月後には同じ問題が再浮上する可能性はあります。ただ、両党にデフォルトだけは回避する意思を確認できた意味合いは大きいと思います。

なお、議会の対立が米国のデフォルト懸念を高めていることに対し、6名の元米財務長官が連名で9月後半にペロシ下院議長など議会の主要メンバーに書簡を送っています。書簡の冒頭には米国は過去232年確実に国債の元利払いを行ってきた、これからも維持する必要があることを訴えています。財務長官OBも事態を見かねたようです。

仮に米国がデフォルトとなった場合どれほど深刻なのか?複数の格付け会社はその場合米国国債をDなどデフォルト格に引き下げると警告していました。米国債は各種取引の担保にも活用されており、様々な分野に深刻な影響が及ぶことが想定されます。1度でもデフォルトを起こせば信用を取り戻すのは至難の業でしょう。米国は返済能力があるのだから大きな問題ではないとの見方もありますが、米国国債の幅広い活用を考慮すれば、過小評価は避けるべきと考えます。

今後ですが、民主党の3.5兆ドル規模の単独法案の動向が債務上限などの問題を左右すると思われます。共和党はもとより、民主党内部からも規模や財源(増税)を巡り批判が高まっています。どの程度民主と共和両党が、若しくは民主党内部が歩み寄れるかが今後の鍵となりそうですが、債務上限は財政規律の確保という本来の主旨の拡大解釈のかたちで利用されることも想定されます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米CPI、インフレ再加速懸念は杞憂だったようだが

注目の全人代常務委員会の財政政策の論点整理

11月FOMC、パウエル議長の会見で今後を占う

米大統領選・議会選挙とグローバル市場の反応

米雇用統計、悪天候とストライキの影響がみられた

植田総裁、「時間的に余裕がある」は使いません