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ECB債券購入縮小の前倒しを打ち出すも悩みは深い
梅澤 利文
2022/03/11

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概要

ロシアの軍事侵攻後初という点で、今回のECBの政策理事会の方針が注目されていました。市場では、事態の推移を見守るため正常化を先送りするとの見方もありましたが、量的緩和政策(APP)縮小が若干前倒しされるなど金融政策の正常化姿勢が見られました。もっとも今後の展開はデータ次第という面もあり、ECBが判断に苦しむ姿も浮き彫りとなっています。



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ECB政策理事会:ロシア軍事侵攻後、初の理事会でもインフレへの対応を示唆

欧州中央銀行(ECB)は2022年3月10日に政策理事会を開催し、量的緩和政策(APP)の縮小を前倒しする方針を発表しました。ロシアのウクライナに対する軍事侵攻で景気の先行きへの不安がある中、インフレ抑制にも配慮が必要なことを方針として示しました。

ECBの発表を受け、ユーロ圏国債市場ではイタリアやスペインなどを筆頭に利回りが上昇(価格は下落)しました。

どこに注目すべきか:ECB政策理事会、APP、前倒し、経済予想

市場の反応から判断して、今回のECB理事会のトーンをややタカ派的(金融引締めを選好)と解釈したようです。これは主に次の点が背景です。

まず、市場予想の据え置きに反し、APPの購入縮小を前倒ししたことです。月次資産買入額を4月が400億ユーロ、5月が300億ユーロ、6月が200億ユーロに減額するとし、7-9月期の買入額は指標次第だと説明しました。これまでは4-6月期は月額400億ユーロ、7-9月期は同300億ユーロ、10月以降200億ユーロとしていました。5月以降の購入額は削減された上、7-9月期はデータ次第でAPPは終了するとしています。APP終了時期の前倒しが示唆されたことで金融政策の正常化への前進がうかがえます。

次に、データ次第となる経済予想を見ると、こちらも正常化を意識させる内容です。実質GDP(国内総生産)成長率は22年が3.7%と、ロシアの軍事侵攻の影響などを背景に前回(21年12月)から0.5%下方修正しています(図表1参照)。しかし市場はユーロ圏の成長率をより深刻に予想し始めています。ECBがこの程度の落ち込みしか想定しないのならば、ユーロ圏の景気に対しECBは強気とも見られます。

なお、GDPの内容を見ると、個人消費と投資が下方修正の要因となっています。ロシアの軍事侵攻という不確実性が消費と投資に悪影響を与えたとみられます。不確実性を前にして消費や投資が減少することは良くありますが、23年の成長率予想を見ると修正は小幅にとどまっています。これは、今回のECB予想を見る上で注意しなければならない点でしょう。この予想には、経済に深刻な影響を与えうるロシアの軍事侵攻がいつまで続くかは明示的に反映されていないように思われるからです。今後の展開を見通すことや、予想に反映することはECBにとっても至難のわざなのだと思われます。

ECBはインフレ予想を大幅に引き上げたこともタカ派的と見られた要因です。22年のユーロ圏消費者物価指数(HICP)予想は5.1%と前回から2%近く引き上げられました。また、エネルギーまたはエネルギーと食品を除いた22年のインフレ率もそれぞれ0.8%、0.7%引き上げられました。エネルギー価格の影響によるインフレ率の上昇は明白ですが、他の項目にも影響が拡大している点は気がかりです。なお、インフレ率については、中期的に上昇が弱まらない場合APPを7-9月期に前倒しして終了させる条件と位置づけています。

最後に、政策金利に関連するフォワードガイダンス(今後の金融政策の方針)の修正も、タカ派的と見なされた要因と思われます。具体的な変更は政策金利について従来の表現は「資産買入を利上げの少し前に終了させる」でした。これが「一定期間後に緩やかに実施される」に変更されました。

ECBのラガルド総裁はこの表現の変更について、柔軟性を高めるためと説明しています。もっとも市場は、このような表現変更は「利上げを示唆する必要があるから文言を変えた」と考える傾向が見られます。実際、中央銀行は声明文などの表現を変えて政策変更のシグナルとすることをしばしば使います。もっともロシアの軍事侵攻をほとんどの人が想定出来なかったように、今後の展開も不確実性が高い中、柔軟性を高めたという説明はもっともであるように思われます。

インフレ懸念と景気先行き不安に直面しながらも、インフレへの対応は基本方針であると見られます。ただそのさじ加減はデータ次第と表現されています。それは、今後が読めないことに悩み続ける姿の裏返しのようにも響きます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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