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- 4月の米雇用統計の強さと課題
今回の米雇用統計では、引き続き米国の労働市場が改善傾向であることが示されました。したがって、金融正常化を急ぐ米金融当局の政策に与える影響は限定的と思われます。もっとも、今後については失業率や賃金の動向を占う上で、確認が必要な点も見られました。特に賃金動向は米国の金融政策の動向をある程度左右する展開も考えられます。
米4月雇用統計:低水準の失業率など米雇用市場は依然堅調、賃金上昇はやや鈍化
米労働省が2022年5月6日に発表した4月の雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月比42.8万人増と、市場予想の38.0万人増を上回り、3月の42.8万人増(速報値43.1万人増から下方修正)に一致しました。
失業率は3.6%と、市場予想の3.5%を上回った一方で、前月の3.6%とは一致しました。平均賃金は前月比0.3%上昇と、市場予想の0.4%上昇、前月の0.5%上昇を下回りました。前年同月比では5.5%上昇で、市場予想に一致し、前月の5.6%上昇を下回りました。
どこに注目すべきか:米雇用統計、金融政策、労働参加率、賃金
今回の米雇用統計は引き続き米国労働市場が堅調であることが示されました。非農業部門の就業者数は市場予想を上回る前月比42.8万人増となりました。就業者数の動向を部門別に見ると、4月は幅広い部門で採用を増やした点が堅調さの証と見ています(図表1参照)。コロナ禍からの回復局面では、娯楽・接客部門などを中心にコロナで落ち込んだ部門の雇用回復が全体をけん引する面がありました。しかし、今回の部門別就業者の変化を見ると、製造業や石油などの採掘に関連する雇用を含む鉱山等にも伸びが見られるなど回復に広がりが見られました。
米連邦準備制度理事会(FRB)は5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%の利上げを決定すると共に、パウエルFRB議長が会見で6月、7月のFOMCでも0.5%の利上げを検討する可能性が高いと述べました。通常の0.25%の利上げより早いペースで、金融政策を正常化させる一方で、金融政策の予見性を高めたと見られます。今回の雇用統計はパウエル議長が示唆した金融政策の今後の動向に大きな影響を与えるものではないと思われます。
ただし、次の点は不透明要因と見ています。まず、失業率が市場予想ほどには低下(改善)しなかった一方、就業者と求職者(失業者など)を合わせた労働力人口の生産年齢人口に占める割合である労働参加率が62.2%に低下したことです。労働参加率はこの1年ほど上昇傾向で、失業率は低下傾向でした。概して雇用や働きたい人が労働市場に戻る中で失業率が低下する、質の良い低下と見られます。今回の労働参加率の低下が一時的要因によるものなのか、今後の動向の見極めが大切と見ています。
次に、より重要な点として賃金の伸びに減速が見られたことです。4月の平均賃金は前月比0.3%上昇と3月から伸びが鈍化しました。FRBはエネルギー価格上昇より賃金と物価のスパイラル的な上昇を懸念していると筆者は見ています。金融引き締めを迫られているFRBにとって、賃金上昇の鈍化が続くようであれば、「朗報」となるかもしれません。ただ、賃金上昇を部門別に見ると、賃金上昇鈍化が今後も続くと判断するには次の点を確認する必要があると見られます(図表2参照)。例えば、全就業者数に占める割合が1割を超える小売業の賃金の下落が全体を押し下げた可能性があります。小売業の賃金下落が持続的なのか確認が必要です。娯楽・接客部門、専門・事業などの賃金も先月に比べ鈍化しています。これが平均賃金の伸びの「鈍化」に寄与したことは考えられます。しかし、前月比の水準は0.5%を超えており、依然高水準と見られます。単に過度な高賃金が調整されただけにすぎない可能性もあります。一方で製造業などは3月から賃金の伸びが加速している部門もあります。今後の部門の広がりにも注意が必要です。
4月の米雇用統計は、課題は残るも米労働市場の堅調さを示したことから金融政策への影響は小さいと見ています。
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