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- ロシアが天然ガス供給を止めたらユーロ圏成長率はどうなるか
欧州委員会によるユーロ圏の経済成長率とインフレ率の予測を見ると、ロシアの軍事侵攻を受け成長率は下方修正、インフレ率は上方修正されています。同見通しは今後の展開次第ではさらなる悪化を見込む必要があることを示唆しています。なお、インフレは消費者マインドの悪化などを通じて家計に悪影響を与えており、優先して取り組むことが求められます。
ユーロ圏経済予測:欧州委員会は成長率予測を引き下げ、インフレ予測を引き上げた
欧州連合(EU)統計局(ユーロスタット)は2022年5月17日に1-3月期GDP(域内総生産)の改定値を発表しました。前期比で0.3%増と、速報値の0.2%増から小幅改善しました。前年同期比も5.1%増と速報値の5.0%増から改善しました。
EUの政策執行を担当する欧州委員会(EC)は16日、四半期毎に公表している経済見通しをリリースしました。ユーロ圏の22年の実質GDP成長率見通しは2.7%と、前回(2月)の4.0%から下方修正しました(図表1参照)。
ユーロ圏のインフレ率(HICP)は22年が6.1%と、同3.5%から上方修正しました(図表2参照)。
どこに注目すべきか:ロシア軍事侵攻、欧州委員会、天然ガス
ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始した2月24日を含んだ1-3月期のユーロ圏GDP成長率は前期比で0.3%増となりました。日本や米国の1-3月期GDP成長率が前期比でマイナスであったことと比べればユーロ圏の成長率は底堅かったとも見られます。日米の成長率がマイナスとなったのは両国の前期(21年10-12月期)の成長率が高かった一方で、ユーロ圏の同期の成長率が低水準であった面はあります。それでも、ユーロ圏の1-3月期は新型コロナウイルス対策の行動制限が緩和された時期で、サービス業に回復が見られました。
ユーロ圏のサービス業動向をリアルタイムデータで確認すると、少なくともロシアの軍事侵攻前は昨年後半の落ち込みからの持ち直しが見られます。
ただ、ロシアの軍事侵攻はユーロ圏経済に深刻な影響が想定されます。そこで欧州委員会の経済見通しを参考にユーロ圏経済の今後のポイントを予想します。まず、今年のユーロ圏の成長率は前回(2月)時点の予測である4.0%増から2.7%増へ下方修正されました。前回のユーロ圏成長予測が比較的高水準だった背景は、コロナ対策の緩和に加え、失業率の低下に見られるようにユーロ圏の労働市場が改善傾向であること、家計の貯蓄(過剰貯蓄)水準が高いこと、緩和的な金融政策と欧州復興基金など財政政策の下支えなどによります。
しかしながら欧州委員会はユーロ圏の成長率を今回、大幅に下方修正しました。欧州委員会は成長率を引き下げる要因として、ユーロ圏のロシア産エネルギーへの依存の高さ、エネルギー価格上昇にけん引されたインフレ率の上昇などをあげています。またウクライナからの避難民の急増も対応に苦慮する可能性を示唆しています。インフレに伴う消費者マインドの悪化も懸念要因でインフレ対応は急務です。
なお、22年のインフレ率は6.1%と、前回の3.5%から大幅に上方修正しています。もっとも、来年のインフレ率は2.7%と、前回の1.7%から上方修正されてはいますが、徐々に落ち着きを取り戻す展開が来年にかけて見込まれます。
しかし、経済成長率、インフレ率の予想はあくまでメインシナリオであって、欧州委員会は悪化と、深刻の各懸念シナリオを用意しています。悪化シナリオは主にエネルギー価格の25%程度の上昇を前提とした場合です。一方、深刻なシナリオは原油価格については悪化シナリオと同じ前提ですが、ロシアが突然天然ガス供給を停止した場合における経済予測を試算しています。深刻シナリオの場合、今年のユーロ圏成長率は2.7%から0.2%とほぼゼロ成長に落ち込み、来年の成長率も2.3%から1%台への低下を見込んでいます。一方、インフレ率についても22年は9%を超えると見込んでおり、インフレと景気悪化の同時進行が懸念されます。
ユーロ圏の賃金は経済成長率が高くはないことから足元伸びが鈍いなかで、エネルギー価格上昇によるインフレが進行する構図で実質賃金の目減りが懸念されます。また、ユーロ安が輸入物価を押し上げる可能性もあります。景気に配慮するとしても、欧州中央銀行(ECB)は物価抑制を最優先する必要性を高く見ていると思われます。
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