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ECB、9月に大幅利上げの可能性を示唆
梅澤 利文
2022/06/10

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概要

6月のECB政策理事会で、金融引き締め姿勢が鮮明となりました。ECBスタッフによる経済見通しを見ても、ユーロ圏のインフレ懸念はしばらく続くことが想定され、引き締め政策の前倒しに政策の軸足がシフトしたようです。債券市場はECBの姿勢の変化を織り込む動きとなっています。ただ、ECBの先行きの方針には不透明な点もあり、今後の展開を見守る必要がありそうです。



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ECB政策理事会:9月の大幅利上げの可能性示唆は市場にサプライズとなった

 欧州中央銀行(ECB)は2022年6月9日の政策理事会で、7月1日に量的緩和政策を終了することを発表しました。また、同月には0.25%の利上げに踏み切る方針を声明文に明記しました。加えて、9月には大幅な利上げ(0.5%)の可能性があることを示唆しました。

ECBの発表の一部に市場の想定を上回る利上げ幅が示唆されたことで、ユーロ圏の国債利回りは上昇(価格は下落、図表1参照)しました。四半期ごとに公表されるECBスタッフの経済見通しでも示されているように(図表2参照)、インフレ率上昇に対する懸念を背景に、ECBはより積極的な金融引き締めを選択したこととなります。なお、通貨ユーロはラガルド総裁の会見後は伸び悩みました。

どこに注目すべきか:APP、ECB経済見通し、HICP、大幅な利上げ

 今回の声明文のポイントは次の3点です。

①量的金融緩和政策(APP)を7月1日に終了すること、②同月中には0.25%の利上げに踏み切る方針であるうえに、9月については条件次第では(0.5%を意味する)大幅な利上げの可能性もあること、③9月より先の政策に関しては、緩やかかつ継続的な利上げが適切との見方を示しました。

市場が今回のECBの発表をタカ派(金融引き締めを選好する姿勢)と受け止めた背景は①については、7月1日に量的金融緩和を停止(再投資は継続)するとした点です。よりタカ派的と受け止めたのは②で、9月の利上げ幅を0.5%とする可能性を示唆したことです。

サプライズとなったのは、ラガルド総裁が5月23日にブログで示唆した内容と、今回の声明を比べるとタカ派寄りと見られるからです。例えば、APP停止時期はブログでは7-9月期の極めて早い時期、となっています。実際に発表された停止時期は7月1日なので、間違ってはいませんが、最も早い日に設定した点で、切迫感が伝わります。

もっとも意外だったのは9月の政策理事会では中期的なインフレ見通しによっては大幅な利上げもあると表明した点でしょう。政策理事会前の公に発言できる機会でECBのレーン理事のような影響力のある複数のメンバーが7月、9月は0.25%の利上げを支持していました。しかし、全会一致となった今回の決定は、全体のコンセンサスを獲得するにはタカ派の主張に歩み寄る必要があったのかもしれません。

タカ派の主張ももっともで、ECBスタッフの経済予想を見ても、ユーロ圏のインフレ懸念は3ヵ月前に比べ急激に悪化しています(図表2参照)。例えば、ユーロ圏の消費者物価指数(HICP)は22年、23年が前回に比べ1.5%前後も上方修正されています。ユーロ圏のインフレ率は原油や天然ガスなどエネルギー価格の上昇で説明されることが多く、それが金融政策による対応を遅らせていましたが、足元ではユーロ安による食品価格などの上昇や、ユーロ圏の賃金上昇などECBが看過できない要因が増えてきたと見られます。

そこでギリシャなど景気回復に利上げの影響が大きい国には債券購入政策を柔軟に適用することで不満を抑え、全体としてタカ派の決定で合意できたように見受けられます。

ただ、ラガルド総裁の発言後、ECBのタカ派化にもかかわらず、通貨ユーロはやや軟調でした。再びECBの経済予想でGDP(国内総生産)成長率を見ると、こちらは下方修正されています。今回ECBは7月の利上げと、9月の大幅利上げの示唆により、金融引き締めの前倒しを演出しました。しかし、10月以降の方針は必ずしも明確でなく今後のデータ次第でどちらの方向にも変わる可能性が考えられます。ECBの目先の前倒し姿勢は予想に反映させる必要があるとしても、その先の政策の行方については、もう少し検討が必要と見ています。

 


 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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