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ハンガリー中銀による大幅利上げの教訓
梅澤 利文
2022/06/29

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概要

ハンガリー中銀は市場予想を大幅に上回る利上げを決定しました。通貨フォリント安などを背景に、インフレ見通しが悪化したことで、急激な利上げに追い込まれた格好です。ハンガリーのインフレ率を押し上げたのは生活に直結する食料品が主な項目なだけに深刻です。もっとも、通貨安の背後には地政学リスク、もしくは政治も寄与している可能性が考えられそうです。



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ハンガリー中央銀行:市場予想を大幅に上回る利上げでインフレ抑制姿勢を示す

 ハンガリー国立銀行(中央銀行)は2022年6月28日の金融理事会で、主要な政策金利である基準金利を5.90%から、市場予想を大幅に上回る1.85%引き上げて、7.75%とすることを決定しました(図表1参照)。ハンガリー中銀は利上げを21年6月に開始し、その後13回連続で政策金利を引き上げています。昨年の利上げ幅は0.15%から0.30%程度でしたが、今年になり利上げ幅を拡大させています。

市場予想では大半が今回の引き上げ幅として0.5%を見込んでいたことから、ハンガリー中銀が想定以上にインフレ懸念が強いことが明確に示されました。予想を上回る利上げを受け、この1年ほど下落傾向であった通貨フォリントは金融政策の発表直後に一時的に上昇しました。

どこに注目すべきか:ハンガリー中銀、市場予想、食料品、議会選挙

 ハンガリー中銀が大幅利上げを決定した背景であるインフレ率を消費者物価指数(CPI)で確認すると、5月は前年同月比で10.7%上昇しました(図表2参照)。ハンガリー中銀が設定するインフレ目標は3%(±1%)で上限の4%をも大幅に上回る水準となっています。

ハンガリー中銀が大幅利上げを決断した背景としてインフレ見通しの悪化をあげています。同日に公表されたインフレ報告書で同中銀のインフレ予測を確認すると、22年のインフレ率は11.0%~12.6%と、前回(3月)の7.5%~9.8%の見通しから大幅に引き上げています。しかも、インフレ率が高い水準が長期化することも見込んでいます。23年のインフレ予測を6.8%~9.2%と前回の3.3%~5.0%から引き上げているからです。なお、インフレ率が目標に回帰するのは24年であるとの予測(2.5%~3.5%)は前回と変わりませんでした。

ハンガリーのインフレ率は水準だけでなく内容にも問題があります。国民生活に直結する食料品の上昇率が前年比で18.6%の上昇と高水準で、CPI全体をけん引しているからです。食品価格に国民の不満も高まっているようです。

次に、電力・ガス価格の上昇率は前年比1.6%と低水準ですが、これは政策により上限価格が設定されたためで持続性には疑問が残ります。なお、仮に上限価格の設定がなければCPIの水準はさらに高くなっていたと見られます。

インフレ率の上昇が消費者センチメントを悪化させています。ハンガリーの消費者信頼感指数はインフレ率の上昇に伴い急速に悪化しています(図表2参照)。センチメントの悪化が消費減速、景気悪化を引き起こすことも考えられます。

なお、ハンガリーの1-3月期のGDP(国内総生産)成長率は前年同期比8.1%と比較的高水準です。しかし、ハンガリー中銀の成長率予想を見ると22年は4.5%~5.5%、さらに来年は2.0%~3.0%へ低下することが見込まれています。並べてみると、22年1-3月期の成長率が不自然に高い印象ですが、恐らく背景は4月の議会選挙に向けた支出、例えば所得税還付などが成長率を底上げしたものと見ています。

しかし、ハンガリーの財政赤字は拡大傾向で、景気てこ入れの役割は後退するものと見られます。このような中で物価高を背景とした消費者センチメントの悪化は望ましくない展開で、ハンガリー中銀としても通貨安対策やインフレ対応を推し進める必要に迫られたのではないかと見ています。


ハンガリーは欧州連合(EU)加盟国でEUの財政支援は期待されます。しかしハンガリー(特にオルバン政権)はロシア寄りの姿勢も見られます。EUからの経済支援を確保するには政治方針に見直すべき点があるように思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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