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チリペソ下落、短期と長期の問題
梅澤 利文
2022/07/06

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概要

南米チリは3月に左派の大統領が就任しました。福祉政策の拡大や格差是正などに期待が集まったと見られます。チリの財政状況は数字の上では健全ですが、国民へのサービスが不足していたことと裏腹であったとも見られます。今後は福祉と経済成長のバランスを模索することが想定されますが、目先は通貨安という難問に直面しています。



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チリ新憲法草案:国民福祉の改善に向け新憲法草案を提出、承認に向け国民投票へ

南米チリの制憲議会は2022年7月4日に憲法草案をボリッチ大統領に提出しました。2ヵ月後の9月4日に国民投票を実施し、承認の是非を問う運びです。

現在のチリの憲法はピノチェト軍事政権下(1973~90年)に制定されたこともあり、福祉政策などが不十分と見られています。これに対し国民の不満が高まったことを受け、憲法草案には福祉や教育が盛り込まれています。ただし、急速な方針転換には経済界からの反対も多く、国民投票で承認が得られるかについては不確実性も残されています。

どこに注目すべきか:チリ、銅価格、新憲法草案、ロイヤルティ法案

主要な新興国について通貨騰落率ランキングを見ると、6月月間で最も下落した通貨の1つがチリペソで、1割以上下落しました(図表1参照)。なお、6月に同様に大きく下落したのはブラジルやコロンビアです。共通点として、資源国であること、左派政権台頭への懸念が挙げられます。

チリペソ下落の明確な背景は資源価格、特に銅価格の下落でしょう(図表2参照)。それまでの上昇傾向から、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での大幅利上げなどに伴い世界的に景気悪化懸念を受け、景気動向を反映する傾向が強いとされる銅価格は下落傾向に転じました。

なお、チリ中央銀行は1年前から利上げを開始し、8会合連続の利上げで政策金利は9.0%(現在時点)としましたが、銅価格急落を前にペソ安抑制には不十分なようです。

チリペソと、銅価格の動きは短期的には米金融政策などに影響された面が大きいと思われます。一方、中長期的な変動要因としてはチリの政治動向が挙げられます。チリは世界の銅の3割程度を算出する有数の銅生産国で財政は健全ですが、軍事政権下の名残でチリの福祉政策など格差対策は不十分でした。これを改めるべき動きが数年ほど前から見られます。チリでは19年10月に大規模な反政府デモが発生しました。表向きの理由は地下鉄料金の値上げですが、格差是正を求める声が根底にあったと見られます。

この動きの中で浮上したのが新憲法で、教育や医療を受ける権利が明確に盛りこまれています。ただ、市場参加者が懸念していた天然資源の国家管理は、チリ経済界などからの強い反対もあり見送られた模様です。もっとも、新憲法の草案を受け取った左派のボリッチ大統領は、格差是正を公約に昨年12月の決選投票で勝利し、今年3月に就任しており、格差是正に向けた政策を進めると見られます。

ボリッチ政権の政策で銅市場が注目しているものの1つとに税制も挙げられます。1日に提出された税制法案には選挙公約であった富裕層への課税強化と並んで、鉱山会社へのロイヤルティ(税金)引き上げが含まれています。ロイヤルティそのものはこれまでも存在しますが、新たなロイヤルティで税収引き上げ検討されてきました。21年5月にチリ下院で可決した新たなロイヤルティ法案についてボリッチ政権はその概要を示しました。なお、ロイヤルティ法案のイメージは鉱山会社の売上や売上高営業利益率に応じて累進的に課税するものです。また、銅の年生産量や銅価格により税金が異なり、契約によっては適用期間が異なるなど内容は多岐にわたるため、影響度合いを推し量るにはさらなる情報の確認が必要です。ただ、仮に鉱山会社への負担が過度となる場合、銅価格への悪影響も懸念されます。

チリの人々が格差是正や福祉の拡充を求めるのは、歴史的経緯からも自然な動きであるように思われ、それは見守るしかありませんが、鉱山会社に対する過大な負担は銅価格にも影響が想定されるだけに、動向を注視しています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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