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ECBもインフレ抑制姿勢だが
梅澤 利文
2022/08/31

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概要

ECBの次回政策理事会は9月8日が予定されています。天然ガス価格上昇などを背景にユーロ圏のインフレ率は今後も上昇が想定されるなか、ECBメンバーにインフレ対応を強化する姿勢が見られます。0.75%の大幅利上げを支持する声も聞かれます。ただ、ユーロ圏はセンチメントの悪化から景気後退リスクが高まっており、神経質な対応が求められそうです。




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ECB:インフレ対応が最優先ながら、対応の難しさも見え隠れする政策運営

欧州中央銀行(ECB)の政策委員会メンバー、 ナーゲル独連銀総裁は2022年8月30日の講演で、ユーロ圏の景気後退(リセッション)の不安が記録的インフレに対抗する利上げを妨げることがあってはならないと語りました(図表1参照)。

世界の中央銀行関係者や経済学者らが集う経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が8月25~27日の日程で開催されました。注目は米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の講演でしたが、ECBからも多くのメンバーが参加(ECBのラガルド総裁は不参加)し、活発な議論が行われました。ユーロ圏は深刻なインフレに直面する一方(図表2参照)、景気後退懸念も根強いことから柔軟な政策運営のかじ取りが求められています。

どこに注目すべきか:ECB、タカ派、ハト派、リセッション、インフレ

ジャクソンホール会議では想定以上にタカ派(金融引き締めを選好)姿勢であったパウエル議長の講演が注目されました。同じようにインフレ問題に直面するECBメンバーも9月8日の政策理事会を前にジャクソンホール会議やそれ以降に金融政策に対する考え方を表明しています。

ECBは理事会と19の中央銀行で構成される(投票権は輪番制)大所帯であり、コンセンサスを見出すのは至難の業ですが、米国同様にインフレ抑制を最優先する姿勢は基本的には共有されているように思われます。9月の政策理事会では少なくとも0.5%、場合によっては0.75%の利上げも検討する意見が多いように思われます。ECBの中でもタカ派とみられているシュナーベル理事や、ナーゲル独連銀総裁などは0.75%の利上げを支持しているとみられます。また、7月のインフレ率が前年同月比で22.8%と深刻とな状況のエストニアのミュラー総裁も0.75%を支持していることがうかがえます。ホルツマン・オーストリア中銀総裁も0.75%を議論の対象にする考えです。

一方、インフレ抑制の必要性では一致するものの、フランス中銀のビルロワドガロー総裁は質疑応答でユーロ圏が今年リセッションに陥る小さなリスクに言及するなど景気への配慮も見られます。ハト派(金融緩和を選好)姿勢を示唆しているのはECBのチーフエコノミストでもあるレーン理事で、安定的なペースでの利上げを支持しています。インフレ抑制の重要性は共有するものの、対応策に温度差は残っています。レーン理事は29日の講演で理事会ごとに政策を評価することを提案しています。しかし、通常この段階に進むのは景気を加速も冷やしもしない中立金利の水準に政策金利が到達した段階でシフトする傾向が見られます。7月に利上げを開始したばかりで言及するのは時期尚早のように思われます。

ただ、あえてサポートするならば、ユーロ圏の先行きが不透明で柔軟な対応が結果的に求められる展開も想定されます。ユーロ圏の景気は目先急速に悪化することが想定されることが一つの要因です。筆者は来年前半にユーロ圏がリセッションに陥る可能性があると見込んでいます。一方でユーロ圏のインフレ率は、ピークアウト感が見られた米国と異なり、今後も上昇が見込まれます。本日発表される8月のインフレ率の市場予想は7月の8.9%を上回ると見込んでいます。その上、ロシアが天然ガス供給を停止した場合の影響を想定することは極めて困難です。インフレ抑制は最優先政策ながら、結果的に柔軟性が求められるかもしれません。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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