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- 4月の米雇用統計に見る今後のFOMCの動向
4月の米雇用統計は失業率など見出しとなる数字は米労働市場の強さを示す数字でした。しかし内容を見ると、注意すべき点もあり、変化を前に様々なシグナルが出る段階ということなのかもしれません。このような環境下、 5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げが決定されたものの、今後は据え置きが示唆される内容で、当面の金融政策は様子見が想定されます。
4月の米雇用統計で、非農業部門就業者数は市場予想を上回った
米労働省が2023年5月5日に発表した4月の米雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月比25.3万人増と、市場予想の18.5万人増を上回りました。3月は23.6万人増から16.5万人増に下方修正、2月も32.6万人増から24.8万人増に下方修正、2月と3月の合計では14.9万人分下方修正されました。部門別に就業者数をみると、娯楽・接客や専門事業、教育・医療など比較的幅広い部門で増加が見られました(図表1参照)。
失業率は4月が3.4%と、過去最低水準で、市場予想の3.6%を下回りました。平均時給は前月比0.5%上昇と、市場予想、前月(共に0.3%上昇)を上回りました。
4月の米雇用統計は底堅さを再確認する内容だが、注意点も散見される
4月の米雇用統計を受け、米国債市場で利回りが上昇(価格は下落)しました。米労働市場の底堅さが示されました。部門別就業者数でも企業に各種サービスを提供する専門事業や、民間教育やヘルスケアを提供する教育・医療、製造業などが前月比で伸びています。なお、建設業も4月は前月比1.5万人増と前月のマイナスから回復しましたが、気候要因の影響も考えられます。
ただし、内容の一部に弱さも見られます。雇用の先行指標となる傾向がある人材派遣は前月比マイナス圏での推移が続いています。また、4月の非農業部門の就業者数は前月比25.3万人増でしたが、2月と3月の合計で14.9万人分が下方修正されている点も気がかりです。
しかしながら、失業率や平均時給の伸びからは米労働市場の強さがうかがえます。例えば、失業率は3.4%にまで低下しましたが、労働参加率を25~54歳の年代に限ると83.3%で、2008年以来の高水準となっています。働き盛りの年代の雇用は相当に引き締まっていることがうかがえます。一方で若年層(16~24歳)とシニア層(55歳以上)の労働参加率は回復が鈍く、世代間の格差は気になるところです。
インフレ動向を占ううえで注目される賃金、とりわけサービス部門の賃金を平均時給で見ると、4月は前月比で0.5%上昇と前月を大きく上回りました(図表2参照)。賃金動向は住居費を除いたコア・サービスインフレに大きく影響する傾向があるだけに、今後の動向が懸念されます。時点は異なるものの、米連邦準備制度理事会(FRB)が重視すると言われ、5月月初に発表された1~3月期の雇用コスト指数(ECI)も前期比で1.2%上昇と市場予想を上回りました。一方で、再び図表2の米雇用統計における平均時給に戻ると、サービス部門の平均時給は専門事業部門が前月比0.6%上昇と高水準でした。専門事業部門は図表1にあるように4月は就業者数も多くなっています。部門間の平均時給の伸びの差異は他部門でも見られます。ECIはこのような差異の影響は受けにくいものの、次回(4~6月分)は7月末に公表予定です。
米労働市場の指標は様々なシグナルがある中、FRBには時間が必要
4月の米雇用統計を改めて評価すると、非農業部門の就業者数や失業率など、見出しとなる数字に強さは示されるものの、過熱感は徐々に和らぎつつあるようです。
米雇用統計以外の労働関連指標を振り返ると、過熱感のピークアウトを示唆する指標が多く見られ始めています。例えば、高水準が続いた求人件数は依然高い水準ながら、ピークアウト感が明確となりつつあります(図表3参照)。労働市場の活況度を示す自発的な転職を示唆する離職率も低下傾向です。今後、米労働市場は悪化する方向となる可能性があると見ていますが、現段階はプラス、マイナス両方の指標が見られる局面と筆者は認識しています。
このような環境下、FRBは5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の利上げを決定するも、声明文から「いくらかの追加利上げが適切かもしれない」を取り除くことで、次回以降の据え置きの可能性を示唆しました。声明文の変更はある程度市場でも予想されていました。そこで今後の焦点は利下げ開始時期になると見られます。雇用統計前までは7月のFOMCにおける利下げが見込まれていたようですが、雇用統計が底堅かったことから9月以降に市場予想は後ずれしています。
もっとも、 FRBのパウエル議長はFOMC後の会見で利上げ継続の可能性に言及したうえ、年内利下げにも否定的です。インフレ水準は依然高く、消費も底堅い一方で、金融不安とそれに伴う貸出し抑制の効果などでこの先の展開は読みづらくなっています。パウエル議長も政策金利は引き締め水準と認識していることから、データ次第ながら、FRBはここしばらくは様子見(据え置き)を続けると見ています。
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