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- 英国労働市場に残された課題
英国のインフレ率のピークアウトは米国やユーロ圏に比べ遅れています。もっとも、エネルギー価格の下落の反映が遅いといった要因などは時間が解決すると思われます。しかしながら、英国労働市場は改善の兆しは見られますが、依然タイトで潜在的な賃金上昇圧力が見られます。インフレに対する不満がストライキとなって表れており、当局には難しい対応が求められそうです。
英中銀、インフレ予測を上方修正し、金融引き締め姿勢を維持
英イングランド銀行(中央銀行)は2023年5月11日、政策金利を4.25%から4.5%に引き上げると発表しました。利上げ幅は2会合連続で0.25%でした。今回の利上げ決定は7対2で、金融政策委員会(MPC)メンバー2人は据え置きを主張しました。ベイリー総裁は決定発表後の記者会見で賃金上昇によるインフレの上振れリスクがあると見て利上げを続ける可能性を示唆しています。
英国のインフレ率は高止まりしており、3月の消費者物価指数は前年同月比10.1%上昇となっています(図表1参照)。英中銀は今回、インフレ率は23年末までに5.1%上昇に低下するとの見通しを発表しましたが、従来予測の3.9%から1.2%上方修正する形となっています。
英国労働市場は緩和の兆しは見られるが、全般に高止まり
英国のインフレ率が高止まりしています。米国やユーロ圏の中央銀行もインフレ抑制継続を示唆していますが、CPIを比べると、米国やユーロ圏のインフレ率にはピークアウト感が見られます。
英中銀の金融政策報告書でインフレ率が高い主な理由を見ると、天然ガスなどエネルギー価格の上昇が挙げられています。しかし天然ガス価格はピークから大幅に下落していますが、契約の関係上、下落が反映されるのは年後半と後ずれすることが理由として説明されています。
食料品価格は3月が前年比19.1%と高水準ですが、悪天候などを理由としています。
一方、エネルギーなど変動の大きい項目を除いたコアCPIの高止まりについては、エネルギー価格上昇の間接効果(飲食店のガス代などを価格転嫁)や、タイトな労働市場を背景とした賃金上昇を理由として挙げています。
英国労働市場は求人倍率などを見ると緩和の兆しは見られますが依然高水準です(図表2参照)。
賃金についても頭打ちの兆しは見られます。英中銀は、賃金動向の先行指標(KPMG/REC指標など)が低下を示していることから、年後半賃金は低下するとの見通しを基本としています。
英国賃金は数字の上では頭打ちだが、高止まりが懸念される要因も残る
ただし、英国の労働市場には潜在的な賃金上昇要因があります。長期的な要因として労働人口の低迷が挙げられます。この問題は以前は移民の減少が原因でしたが、移民については回復傾向です。一方、最近では高齢者の労働参加率の低下が問題となっています。英国の上院、下院もそれぞれレポートを最近公表し、英国の早期退職について指摘しています。早期退職は労働市場タイト化の背景と見られ賃金動向に影響する可能性もあります。同様の現象は米国にも見られますが、コロナ禍後の働き方に変化があるようです。
短期的な要因としてはストライキが頻発していることです(図表3参照)。コロナ禍前、英国では1年合計で概ね200~300件程度のストライキが見られましたが、この半年ほどは1か月で数百件のストライキが報告されています。象徴的な例として、昨年12月には、国民医療制度(NHS)の看護師10万人が106年の歴史のなかで初となる全国規模のストの実施を発表しています。また、空港や教員、鉄道など様々な職種でのストライキも報告されています。ストライキ頻発の背景として、名目賃金は上昇していますが、インフレ率を差し引いた実質賃金は過去最低水準に落ち込んでいることが挙げられます。賃上げ要求も、足元のインフレ率をベースにしたものが多く、労使で折り合いが付きにくい状況です。潜在的な賃上げ圧力が残されているようです。
英中銀は声明で、労働市場の引き締まり度合いと賃金動向を注視し、必要であれば対応するという姿勢を示しています。英国経済にもテコ入れが必要なことなどから、英中銀は今回の利上げで据え置きを示唆する可能性も予想されましたが、据え置き開始についてはやや後ずれが想定されます。
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