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- 強さが前面に出た5月米雇用統計の勘所
6月の米雇用統計は非農業部門の就業者数が市場予想を大幅に上回り、米労働市場の底堅さを示す内容でした。もっとも、雇用の強さが賃金上昇圧力を加速させる状況とは言い難く、利上げサイクルが終盤にある状況に変わりはないと思われます。ただし、利下げ開始は当分先になると思われることから、景気への影響に対する判断は慎重に行う必要があると見ています。
5月の米雇用統計は非農業部門の就業者数が市場予想を大幅に上回った
米労働省が2023年6月2日に発表した5月の雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月比33.9万人増と、市場予想の19.5万人増、前月の29.4万人増(速報値25.3万人増から上方修正)を上回りました。部門別で見ても、娯楽・接客、教育・医療、小売、政府など幅広い部門で伸びが確認されました(図表1参照)。
家計調査に基づく失業率は5月が3.7%と、市場予想の3.5%、4月の3.4%を上回りました。
平均時給は前月比0.3%増と、市場予想に一致し、前月の0.4%増を下回りました。前年同月比も4.3%増と、市場予想の4.4%増、前月の4.4%増を下回りました。
就業者数は市場予想を上回ったが、内容には留意すべき点もある
5月の米雇用統計では、非農業部門の就業者数が市場予想を大幅に上回り、米労働市場の堅調さが改めて確認されました。米国債市場でも2日は国債利回りが上昇しました。ただし、賃金は伸び悩み、失業率も上昇したことから、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げを見送り、場合によっては7月に利上げする「スキップ」が市場では見込まれています。
非農業部門の就業者数が5月は前月比で33.9万人増となりましたが、部門別でも強さが見られました。例えば採用の先行指標とされる人材派遣は3ヵ月連続して前月比マイナスでしたが、5月はプラスに転じました。また、コロナ禍からの回復を受け娯楽・接客部門も堅調な伸びを維持しています。
なお、米雇用統計の就業者数は事業所調査が報道などで取り上げられます(図表2参照)。図表2では実線で就業者数を総数で示しています。先ほどの前月比39.9万人の大幅増加は5月と4月の総就業者数の差を示しています。
一方で、就業者数は家計調査による就業者数もあり、図表2で点線で示しました。家計調査は失業率の算出などに使用されていますが、非農業部門を対象とする事業所調査とは調査対象のサンプルなどが異なるため、同じ就業者数という名前ながら、一方の調査では増加、他方では減少というのは珍しいことではありません。
家計調査によると、5月の失業率は3.7%と上昇しました。失業率の分母の一つの項目である就業者数が減ったこと、そして5月の失業者数が前月比で44万人増加したことが失業率を上昇させました。ただし、失業者数の増加などの原因が特定されるにはもう少し時間がかかりそうです。例えば、アジア系の失業率などは安定していた一方で、黒人は上昇しており、今後の確認が必要です。
また、家計調査と事業所調査の違いとして、家計調査にのみ自営業者(セルフワーカー)が含まれていますが、今回自営業者の就業者数が変動要因となった可能性があります。この点の背景などについて今後の確認が必要で、失業率上昇の解釈はもう少し時間が必要と思われます。
平均時給など賃金動向は、依然確認が必要だが、落ち着きが見られる
一方で、平均時給の伸びには落ち着きが目立ち始めています。平均時給全体では5月分が前年同月比で4.3%増と、6%に近づいた昨年3月に比べピークアウト感が鮮明です。前月比でも0.3%増と過熱感は後退した水準と思われます。
平均時給を部門別に見ても減速感が見られます(図表3参照)。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長などが懸念する住居関連を除いたサービス価格の動向は賃金に左右される傾向がありますが、そのサービス部門全体の平均賃金(時給)は5月が前月比0.3%増で、4月を下回っています。なお、賃金データはこの平均時給だけでなく、幅広く確認する必要がありますが、先日発表された米民間雇用サービス会社ADPのデータでは、賃金上昇の要因でもあった転職者の賃金に減速感が確認されました。
一方で、更新がやや遅いアトランタ連銀が算出する賃金トラッカーや雇用コスト指数(ECI)は水準が高いなど、依然として警戒が必要なシグナルも残されています。こちらも、判断には時間が必要と思われます。
5月の米雇用統計は改めて米労働市場が底堅いことを示しました。引き締め姿勢を続けるという意味で、6月でなく7月の利上げの可能性を残すスキップを支持する内容と思われます。ただし、あまりに都合よく解釈することに対しては一抹の不安も残ります。
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