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- ECB、インフレへのガードを下げないとは言うものの
ECBのラガルド総裁は、理事会後の会見でインフレへのガードを下げない、利下げについて議論していないなどと述べ、金融引き締め姿勢の維持を強調しました。利下げの議論があったことを認めたFRBのパウエル議長とは対照的な印象です。ただし、発表内容を振り返ると、ハト派的な面も残されています。市場は24年の利下げ開始時期の想定を、多少調整したという程度にとどめたようです。
ECB、政策金利を据え置き。PEPP再投資の方針についてようやく表明
欧州中央銀行(ECB)は2023年12月14日の理事会で政策金利を市場予想通りに据え置き、預金ファシリティ金利を4.00%、主要政策金利を4.50%としました(図表1参照)。ただし、ECBのラガルド総裁は政策発表後の記者会見で、「利下げについては全く議論しなかった」と述べるなど、市場の金融緩和期待に釘を刺しました。
なお、ECBはコロナ禍の影響を緩和するために導入したパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の下で購入した債券について、24年半ばから保有を減少させる方針を発表しました。PEPPの再投資については、24年前半は全額再投資を続け、24年後半に半分(毎月75億ユーロ)償還させた後、24年末に再投資を停止する方針です。
ECBは24年のインフレ見通しを上方修正するも、コアはむしろ下方修正
今回のECBの発表で注目されたのは主に金融引き締め姿勢を維持したこと、PEPPの再投資の方針を表明したことです。
まず、金融引き締め姿勢の維持は、ラガルド総裁が会見で利下げ議論を否定したことや、インフレへの警戒姿勢を緩めるべきでないと強調したことに示されています。市場がこれに違和感を覚えたのは、先日、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げの議論をしたことを認めたのとは対照的であった、との印象に異論はないと思われます。
また、四半期毎に発表されるECBスタッフの経済見通しを見ると、今回インフレ率を概ね引き下げています(図表2参照)。しかし、24年のインフレ率見通しは2.7%と、前回の3.2%から引き下げてはいますが、最新のインフレ率である11月のユーロ圏の消費者物価指数は前年同月比で2.4%(速報値)にまで低下したことに比べれば、小幅にとどめた印象です。ラガルド総裁はユーロ圏のインフレ率は昨年の上昇の反動でこれまでは下がりやすかったが、来年はこの反動の影響が和らぐことから、24年のインフレ率は低下しにくいと説明しています。
もっとも、インフレ懸念の最大の要因は賃金動向でしょう。先日発表されたユーロ圏の7-9月期の妥結(交渉)賃金は5%を意識させる高水準でした(図表3参照)。仮にこの水準が続くようであれば、追加利上げはないとしても金融引き締め姿勢を維持する必要性はあるようにも思われます。
ただし、賃金データはカバレッジの低さなどから信頼度が必ずしも十分とは言えないと思われます。ラガルド総裁も求人数や欠員率など他の労働関連データも参照する必要性があることを示唆しています。
今回のECBのインフレに対する見解は、どこかすっきりしない印象です。ラガルド総裁が指摘した賃金上昇などインフレ懸念の理由はもっともな面はあります。しかし今回の声明文でインフレ懸念を示す言葉としてこれまで使用してきた「長すぎ、高すぎる(too high for too long)」という文言に置き換わり、「今後数年間緩やかに鈍化する」が使われています。米国でパウエル議長がハト派(金融緩和を選好)的な発言をしたことで、欧州も含め市場が利下げに前のめりになっている中で、火に油を注ぐような発言は回避したい、という意図があったのかもしれません。
ECBはPEPPの再投資規模を来年縮小し25年には再投資を停止する方針
今回のECBのもう1つの注目点はPEPPの再投資に関する方針です。PEPPはその名前が示すように、コロナ禍への対応で導入された制度です。ラガルド総裁も会見でパンデミックの危機は去ったと述べておりその役割を終えたとみられます。問題は、PEPPが実質的に金融緩和として機能していたことです。現在PEPPは再投資を続けていますが、これを縮小すれば当然金融引き締めとなります。来年にも利下げが開始するならば、PEPPの再投資縮小は、混乱を避ける意味で早めにすべきとの声が高まっていましたが、これまで方針の表明を先延ばしにしてきた印象です。
先延ばしの背景は、PEPPに備わっている柔軟性を失うことへの懸念があったと思われます。PEPPは再投資先の選定が柔軟で、イタリアなど利回りが上昇しやすい国の債券を優先的に購入して利回りを平準化することが可能な仕組みです。PEPPだけが要因ではないとしても、ドイツとイタリアの利回り格差は足元比較的安定していました。
発表されたPEPP再投資縮小の方針によると、24年前半は現状通り全額再投資を続け、年後半に半分償還させた後、再投資を停止するという内容です。緩やかなペースでの再投資縮小という印象で、この方針が発表された後、イタリア国債利回りはドイツ国債よりも低下しています。また、再投資が続く間はPEPPの柔軟性は維持されると、ラガルド総裁は述べるなど配慮も感じられます。
インフレへのガードは下げないという言葉に意外感はありましたが、ハト派的な面も見られます。
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