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日銀、マイナス金利解除に向けそろりと前進
梅澤 利文
2024/03/01

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概要

3月は日銀の金融政策を占ううえで重要な春闘の集計結果の発表が開始されます。市場では日銀のマイナス金利解除の時期をめぐる様々な憶測がみられます。足元のインフレ指標や日銀政策委員会のメンバーの発言からその時はかなり近づきつつあるようにも思われますが、不確実な要因も残されており、なかなか決め打ちはしにくい状況です。今後もデータに一喜一憂する展開が想定されます。




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日本の24年1月のコアCPIはインフレ鈍化を示すも、市場予想は上回る

総務省が24年2月27日に発表した1月の消費者物価指数(CPI)は変動の大きい生鮮食品を除いたコアCPIが前年同月比で2.0%上昇と、23年12月の2.3%上昇は下回ったものの、市場予想の1.9%上昇を上回りました(図表1参照)。総合CPIは前年同月比2.2%上昇し、生鮮食品とエネルギーを除いたコアコアCPIは3.5%上昇しました。

インフレ鈍化の背景として、エネルギー価格の下落が挙げられます。主に電気代と都市ガス代の下落を受けエネルギー価格は12.1%下落しました。一方で、集計を再開した外国パック旅行費が前年同月比で62.9%上昇とCPIの押し上げ要因となりましたが、集計のゆがみには注意が必要です。

日本の1月のCPIでは、サービス価格に賃金上昇を反映した動きか

日銀のマイナス金利政策の解除を占うために日本の1月のCPIを振り返ると、日銀のシナリオに近い動きと見られ、3月か4月(メインシナリオ)にマイナス金利を解除する可能性が高いように思われます。

まず、足元のインフレ鈍化傾向は国際的なエネルギー価格がやや落ち着いてきたことを反映したものと見られ、議論の余地は少ないと思われます。

一方で、総合CPIが市場予想に反して前年同月比の上昇率が2.0%を割らなかったことだけをもってマイナス金利解除に向けた前進と受け止めるのには無理があると思われます。むしろ注目すべきは賃金動向を反映する傾向があるサービス価格です(図表2参照)。1月のサービス価格は前年同月比で2.2%上昇しました。エネルギー価格下落などを受けコアCPIが鈍化傾向です。一方で、サービス価格の上昇率は2%前後の水準に徐々に近づいています。サービス価格の上昇は、賃金上昇の価格への転嫁に大きく依存します。まさに日銀が期待する展開で、ようやく始まった賃上げの持続性が問われるところです。

なお、大幅に上昇した外国パック旅行費ですが、コロナ禍による海外パック旅行の販売中止長期化を受け価格取得が困難なことから21年1月以降は、1年前(20年1月)の「外国パック旅行費」指数を代入して補完していました。前年同月比とはいえ実態は4年前との比較です。なお、総務省によると、外国パック旅行費により総合CPIの上昇幅が0.15ポイント拡大したことが(寄与度で)示されています。市場予想がどこまでこの点を反映しているかわかりませんが、発表値が市場予想を上回ったことをある程度説明するものと見ています。

日銀の高田審議委員はマイナス金利解除を支持しているようだ

日銀の高田創審議委員は29日に滋賀県で開催された金融経済懇談会で挨拶(講演)し、その後記者会見を行いました。民間出身の高田氏は審議委員となる前に「異次元緩和脱出」などの著作もあり、著書ではマイナス金利政策の解除(著書のタイトルに従えば脱出)を提言しています。市場関係者による高田氏の評価は概ねタカ派(金融引き締めを選好)寄りとなっています。

高田氏は講演で2%の物価安定目標の「実現がようやく見通せる状況になってきた」と述べるなど、発言内容はタカ派よりでした。賃金と物価上昇の好循環について高田氏は、「根強く定着する『賃金や物価は上がらないもの』と考える規範(ノルム)が転換する変曲点を迎えている」と述べています。1月のCPIに示されたサービス価格に粘着的な動きが見え始めたこととも整合的です。今後の賃金動向を見極めるうえで重要となる春闘については、多くの企業が昨年以上の賃上げ方針を示すなど「賃上げ機運が高まっている」とし、「持続的な物価上昇の実現につながり始めた」と説明しています。

記者会見では3月の金融政策決定会合におけるマイナス金利政策解除の可能性を問われ、「3月でもその次(の4月会合)でも、考えながら対応したい」との発言にとどまり、3月か4月を特定することはなかったものの、そのどちらかの可能性が高まっているように思われます。

なお、マイナス金利解除後は「どんどん利上げをするということではない」という表現で緩やかな利上げを示唆しています。これは先日の内田副総裁が示した(仮にマイナス金利を解除した後の)金融政策運営と似た考えのようです。筆者も、少なくともマイナス金利解除前は、導入時のショックを和らげるため、そのような説明になるものと見ていました。

最後に今後の主なスケジュールを確認します。

まず、春闘の集計結果は第1回が3月13日、第2回が3月22日、第3回が4月4日で予定されています。

日銀の金融政策決定会合は3月が18、19日、4月が25、26日となっています。また、中小企業も含め業況などを調査する日銀短観は4月1日に公表が予定されています。

3月の会合であっても、春闘の動向はある程度把握できるとみられることから、データ次第では3月会合でのマイナス金利解除の可能性も低くはありません。しかしながら、データがより揃うことを考えると、4月の可能性の方が若干高いように思われます。なお、今回の春闘で想定外に低い賃金が示されれば、マイナス金利解除は先送りという可能性も残されていますが、その確率はかなり低いように思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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