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- メキシコ:選挙結果で市場は大荒れ、その背景は
メキシコで6月2日に総選挙、大統領選挙が投開票され、大統領選挙ではロペスオブラドール現大統領の後継者で与党連合が擁立したクラウディア・シェインバウム前メキシコシティ市長が当選を確実にしました。議会選挙では与党連合が憲法改正案成立に必要な議席数を確保する可能性もあり、財政拡大懸念が台頭しました。それを受け為替市場ではペソ安が進行するなど市場は大荒れとなりました。
メキシコ大統領選挙は市場予想通りの結果ながら市場は大荒れ
メキシコで議会と大統領選挙が6月2日に投開票され、大統領選挙ではロペスオブラドール現大統領の後継者であり、国家再生運動(MORENA)など与党連合が擁立したクラウディア・シェインバウム前メキシコシティ市長が当選を確実にしました。
一方、議会選挙ではMORENA、メキシコ環境緑の党(PVEM)、労働党(PT)の与党3党が上院(定数128)で計76〜88議席、下院(定数500)で計346〜380議席と予想を上回る議席を確保する見通しです。3党で憲法改正に必要な3分の2の議席を獲得する可能性も十分に残ることから、市場では年金改革などにより財政悪化が懸念されました。選挙後、市場ではメキシコペソ安(図表1参照)や、株安などに見舞われました。
メキシコの選挙で連立与党は憲法改正に必要な議席を確保する可能性も
メキシコの総選挙後に市場は大荒れで、4日の為替市場で、ペソは一時1ドル=18ペソ台と23年11月以来となるペソ安・ドル高水準となりました。このペソ安の背景を整理します。
大統領選挙ではシェインバウム氏の得票率の途中経過(速報値)は60%前後で、概ね世論調査通りの結果になることが見込まれます。一方、サプライズとなっているのは、世論調査が少なかったということもありますが、議会選挙です。与党連合が想定以上に議席を獲得する見込みだからです。上院には不確実性が残りますが、下院では憲法改正に必要な議席を確保する可能性が高いと思われます。憲法改正が現実味を帯びてきたこと、それによる財政悪化への不安が市場に懸念をもたらしたと見られます。
メキシコ憲法は、過去においてたびたび改正されてきており、憲法改正自体に問題があるわけではありません。現政権は(与党連合として)議会の上院、下院の双方では憲法改正に必要な議席を持ちませんでした。そのため、議会に提出された憲法改正案は多くが否決されてきました。例えば、21年10月にロペスオブラドール大統領が下院に提出した電力国有化に関する憲法改正案(民間事業者の許認可や電力売買契約を取り消し、国営電力公社のシェアを54%まで高める案)は否決され、憲法改正案は廃案となりました。与党連合が3分の2を持たないことが、左派政権の政策特有の民間企業の国有化や財政悪化などを抑制するように機能していたと見られそうです。
今回の選挙開票(途中結果)を受けたメキシコ市場の混乱の始まりは、今年2月5日(憲法記念日)にロペスオブラドール大統領が現役時代の100%の収入を保証する年金改革など憲法改正案を含む20項目の改正案を発表したことにあったと見られます。年金給付拡大となれば財政悪化が懸念されます。それまでロペスオブラドール政権は比較的堅実な財政運営をしてきましたが、2月の憲法改正案などを見る限り、本音は違うようにも見られます。メキシコのGDP(国内総生産)は高金利の影響もあり減速傾向です(図表2参照)。大幅な税収増は足元見込みにくいだけに、財政拡大には慎重であるべき局面と思われます。
また、先の憲法改正案にはメキシコ選挙機構(INE)の改革も含まれています。市場の一部は公平な選挙制度維持への不安もあるようです。
連立与党の議席数が確定するのはこれからですが、開票速報などから、3分の2の議席を確保するのは下院だけとなる可能性もあります。上院が3分の2に達しなくても政治的な駆け引きで野党(上院)の一部が与党に賛成することなどを思えば、ペソ安への圧力は当面続く可能性もあります。
メキシコに経済的優位性は残るが、今後直面しそうな問題にも要注意
メキシコは地理的にも経済的にも米国に近いことから生産拠点を置く「ニアショアリング」の本格化などで23年の実質GDP成長率は前年比3.1%増と堅調でしたが、金利高などで景気はやや減速気味です。それでもサプライチェーン再構築は今後もメキシコの経済成長率の押し上げ要因として期待されます。ただし、これまでの憲法改正案を見る限り、国営企業の優遇策や財政負担が大きすぎる年金改革など市場にフレンドリーとは思えない政策が含まれます。市場の混乱により、今まで目立たなかった政策にも関心が広がりつつあり、その1つに米国の移民政策が挙げられます。
バイデン米大統領は不法入国急増を阻止し、亡命申請を抑制する一連の措置として米国とメキシコの国境通過が大幅に減少するまで一部の亡命申請を認めないなど不法移民への対策を強化する見込みであると報道されています。
米国の11月の大統領選挙では移民政策は主要な争点です。米国と長い国境を接するメキシコは国境警備などに負担を求められる可能性があります。特に共和党候補のトランプ前大統領が当選した場合、メキシコとの国境に設ける壁の建設費用の負担を求める可能性もあります。移民問題は、バイデン、トランプのどちらが政権をとっても、メキシコに、程度の差はあれど、何らかの負担が求められそうです。
なお、比較的健全な財政運営を行ってきたラミレス財務・公債相が次期政権での留任受け入れを表明し、また財政健全化の維持を示唆したことから市場は足元で落ち着きを取り戻しています。もしかすると、今回の市場の混乱は一過性で終わる可能性も考えられなくはありません。ただし、財政政策など政治は先が読みづらいだけに、秋に発足が予定されている新体制の政策を注意深く見守る必要がありそうです。
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