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米5月のCPI、インフレ鈍化へ流れを引き戻したが
梅澤 利文
2024/06/13

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概要

米労働省が発表した5月のCPIは概ね市場予想を下回り、インフレ鈍化が示唆されました。インフレ鈍化の背景を寄与度で見ると、エネルギーとサービスが主な押し下げ要因となりました。4月に続き5月も緩やかながらインフレ鈍化となったことで市場では利下げへの期待が再び高まりました。米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ鈍化を明確に確認することができれば利下げを開始するスタンスと見られます。




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米5月CPIが想定外に鈍化、1-3月期の物価上昇は一時的だった可能性も

米労働省が6月12日に発表した5月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比の上昇率が3.3%と、市場予想、4月(共に3.4%上昇)を下回りました(図表1参照)。物価の短期的な動向を示す前月比でみると5月は0.0%と横ばいになり、市場予想の0.1%上昇、4月の0.3%上昇を下回りました。

振れ幅の大きいエネルギーと食品を除いたコア指数で見ても、5月は前年同月比が3.4%上昇と、市場予想の3.5%上昇、4月の3.6%上昇を下回りました。前月比も0.2%上昇と市場予想、前月(共に0.3%上昇)を下回りました。5月のCPIがインフレ鈍化を示唆する内容であったことから、市場では後ずれも懸念された利下げ開始時期の想定に、再び前倒しの動きが見られました。

米5月のCPIの鈍化はエネルギーとサービス価格が主に寄与

米国では1~3月期の物価や賃金に関連する指標の多くが市場予想を上回り、インフレ再加速が懸念されました。しかし、 4月、5月と米CPIは前月比の伸びが前月を下回ったことから、1-3月の物価の伸びは一時的であった可能性もあります。そう結論するにはもう数ヵ月データを確認する必要はあるでしょう。そこで5月のCPIの内容を参考に、今後確認すべきポイントを振り返ります。

5月のCPIの前月比の変化率をエネルギー、食料品、財、及びサービスの各項目に分類し、各項目の寄与度で見ると、5月の主な下押し要因はサービスとエネルギーでした(図表2参照)。

エネルギーはガソリン価格の足元の低下を反映して、5月は前月比で3.6%減となりました。電力価格は横ばい、ガス価格は0.8%減となりエネルギー全体では前月比2.0%減で、寄与度はマイナスでした。ガソリン価格低下が続くかに注目しています。

5月のサービスは前月比の伸びが鈍化したが、その持続性に今後は注目

サービス(エネルギーサービスを除いたベースで)は前月比0.2%上昇と、4月の0.4%上昇を下回りました。前年同月比は5.3%上昇と依然高水準です。

サービス項目は6割弱が住居費(主に賃料や持ち家に賃料を支払うと想定する帰属家賃)と、それ以外の「スーパーコア」と呼ばれる、コアサービスから住居費を除いたものが4割超とで構成されています。

住居費とスーパーコアの前月比の伸びの推移を見ると(図表3参照)、住居費は前月比0.4%上昇と、前月と同じ伸びで、ここ数ヵ月同水準で推移しています。賃料は契約期間が長期で変動性に乏しいため、市場実勢を反映しやすい新規契約で構成された賃料の先行指標を見ると、こちらも年初からの動きは概ね横ばいで、住居費が明確に鈍化を示すのに時間がかかっています。

次に住居費以外のサービス価格であるスーパーコアを見ると5月は前月比が21年9月以来のマイナスとなりました。もっとも、前回にマイナスとなった局面では、その後スーパーコアの伸びは前月比1%超えとなるまで上昇に転じました。今後の注目点はスーパーコアが低水準で推移するのか、それとも再度上昇に転じるかを見極めることです。

なお、今回スーパーコアを押し下げた主な品目として自動車保険と航空運賃が挙げられます(図表4参照)。5月の航空運賃は前月比で3.6%減となりました。航空運賃は弾力的に価格を設定することもあり価格変動が大きい点は割り引く必要はありますが、夏の行楽シーズンを前に上昇の勢いが和らいでいるようにも見受けられます。

自動車保険にようやく落ち着きの兆しがみられ、前月比で0.1%減となりました。前年同月比では20.3%上昇と依然高水準ですが、サービス価格全体の中でも突出した押し上げ要因であっただけに、前月比での鈍化が来月以降も続くかが注目されます。

最後に、エネルギーとサービス以外で気になる動きとして財項目に含まれる中古車は前月比0.6%上昇と3月、4月のマイナスからプラスに転じ底打ちの兆しが見られました。一方、新車価格は0.5%減とマイナスが続きました。新車、中古車ともに価格の鈍化が続くのか見極めが必要です。

今回のCPIだけで、米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ鈍化に急速に傾くとは思いませんが、物価動向についてより注意深くデータを精査するものとも思われます。年内2回の利下げの可能性は残されていると、筆者は考えています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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