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7月FOMCから想定される、今後の利下げの展開
梅澤 利文
2024/08/01

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概要

FRBは7月のFOMCで政策金利を据え置きましたが、声明文や会見などの発表内容はハト派的で次回の利下げの可能性が高まったとみられます。声明文ではインフレだけでなく雇用市場も注視するとしています。市場では年内残り3回の各FOMCでの利下げを見込んでいるようですが、FOMC参加者の中には利下げに対し慎重姿勢も残されています。今後もデータ次第の政策運営を基本とするようです。




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7月のFOMC、政策金利は据え置きながら、発表内容はハト派的

米連邦準備制度理事会(FRB)は7月30日~31日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で大方の市場予想通り政策金利の据え置きを決定しました。ただし、FOMCの発表内容にはハト派(金融緩和を選好)的な内容が多くみられ、次回(9月)FOMCでの利下げ開始の確度が高まったとみられます。今回の声明文で注目なのは、前回までの「インフレリスクを注視する」から、今回は「インフレと雇用の両方を注視する」に変更された点です。FOMC前のFRB高官の発言を振り返ると、サンフランシスコ連銀のデーリー総裁、パウエル議長らに同様の発言がありました(図表1参照)。

FOMC声明文や、当日の経済指標はハト派を支持する内容だった

7月のFOMCの結果発表があった31日の米国債市場で国債利回りは大幅に低下しました。この背景に次の3点があったとみています。

1点目は雇用市場の緩和を示唆する指標が、偶然にも、発表されたことです。FRBが賃金指標として重視する雇用コスト指数は4-6月期が前期比で0.9%上昇と1-3月期の1.2%上昇を下回り、前期の賃金再加速は一時的であった可能性が示唆されました。4-6月期を前年同期比でみると4.1%上昇とコロナ禍前の水準を上回っていますが、賃金の伸びの鈍化傾向が維持されています。

また、米民間雇用サービス会社ADPが同日に発表した7月の全米雇用報告でも雇用者数は市場予想、前月を共に下回り、米労働市場の過熱感は後退したことが明確となりつつあります。

2点目はFOMCの声明文がハト派的であったことです。FRBの使命は物価の安定と雇用の最大化に責任を負うことです。インフレが深刻となってからの声明文では物価の安定化に注力する記述となっていました。しかし先に指摘したように、今回の声明文では物価と雇用の双方を注視する表現に変更されました。また、景況判断では雇用市場が「緩和した」に表現が改められ、失業率については「低水準である」との認識は前回同様ですが、「上昇した」との文言が付け加えられました。失業率が低水準ながら上昇傾向であることに警戒感が示されました(図表3参照)。足元の失業率は6月のFOMCで示された長期的見通しの4.2%を下回ってはいますが、23年1月につけた最低値の3.4%を上回っているうえに上昇傾向です。インフレだけがリスクではないことは明らかなようです。

パウエル議長の会見は9月利下げ開始の可能性を支持する内容だった

3点目はFOMC後のパウエル議長の記者会見で、最も市場への影響が大きかったとみられます。特に注目したのは、会見の最初の質問への回答で「データの全体像や変化への見通し、リスクバランスがインフレに対し確信を強める(略)、などの条件が満たされれば、早ければ次回9月のFOMCで政策金利の引き下げが選択肢となり得る」と明言したことです。あくまで可能性であり、予告ではありませんが時期を明示して利下げの可能性に言及している点で、9月の利下げへの準備を明確に進めた印象です。

7月のFOMC後、先物市場などで今後の利下げをどの程度、市場が織り込んだかを確認すると、年内残り3回のFOMCすべてで0.25%の利下げが見込まれています。また25年末までとなると、24年9月から利下げを開始したとして合計2%程度の利下げが織り込まれています。

しかし、パウエル議長の会見の内容から、年内3回の利下げを織り込んでよいのか疑問も残ります。理由は、FOMC参加者の中に利下げに慎重な姿勢を支持する人もある程度残っているとみられるからです。慎重姿勢から想定される金融政策運営は次のようなものです。まず、インフレ率は鈍化傾向とはいえ2%を上回り、賃金の伸びは鈍化傾向ながらコロナ禍前の水準を上回っている一方で、雇用市場が悪化していることから、おそらくインフレ率が2%を上回る段階で利下げを開始する見切り発車が想定されます。そのため、インフレ鈍化の証拠を少しでも多く集めたいという姿勢です。また、いったん利下げが開始されたとしても、インフレの再加速がないか各FOMCごとにデータを確認する慎重な政策運営が想定されます。

インフレ率を確認すると、食料やエネルギーを除いたコア消費者物価指数(CPI)は6月が前年同月比で3.3%上昇です。今年末には2%後半まで低下すると筆者は見込んでいますが、2%に達する可能性は低いと思われます。そのため「慎重な政策運営」が当面想定され、FRBも連続的な利下げをあらかじめ想定してはいないように思われます。

インフレ鈍化を確認しながらの利下げという政策運営と、労働市場が急速に悪化するということがない限り、年内の利下げは9月と12月という従来の見通しを維持すべきと考えています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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