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FOMC議事要旨、利下げ示唆に残されたギャップ
梅澤 利文
2024/08/22

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概要

FRBは全会一致で政策金利を据え置きを決定した、7月のFOMCの議事要旨を公表しました。議事要旨によると、一部参加者が利下げ支持の可能性を議論したようです。インフレ鈍化の確度が高まった一方で、労働市場の動向には懸念もあることから、9月のFOMCで利下げを行う可能性が示唆されています。ただ、利下げの頻度や幅について市場とFRBの認識にギャップがある可能性もあり注意が必要です。




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7月のFOMC議事要旨は、9月のFOMCにおける利下げの可能性を示唆

米連邦準備制度理事会(FRB)は8月21日に、7月30日〜31日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨を公表しました。7月のFOMCでは主要政策金利の据え置きを全会一致で決定していました。しかし、議事要旨では、何人かの参加者が「この会合(7月のFOMC)での利下げ支持もあり得た」と述べていたことが示されています。また、データが引き続きほぼ予想通りの内容なら、9月のFOMCでの利下げは適切になる公算が大きいとの考えを大多数が示しました。利下げ開始に前向きな姿勢が示されました。インフレ鈍化が続いていることや(図表1参照)、労働市場の変調が背景とみられます。

7月のFOMC議事要旨で利下げ開始は支持するも大胆な利下げに懐疑的

7月のFOMCの議事要旨では、大半が雇用目標に対するリスクは上昇した一方で、多数はインフレ目標に対するリスクは低下したと述べたことや、9月の利下げ開始示唆など、市場がすでに十分織り込んでいると思われる点について再確認をすることができました。一方で、年内の利下げ回数や、来年の金融政策などについてのヒントは限られていたように思われます。

7月のFOMCの議事要旨における当局の認識と、足元の市場の認識にはギャップがあるように思われます。フェデラルファンド(FF)金利先物市場から想定される年内の利下げ幅は足元1%程度です(図表2参照)。1回の利下げ幅を0.25%とすると、想定される年内の利下げ回数は4回程度が市場で見込まれています。年内のFOMCは残り3回が予定されているため、そのうち1回は0.5%の大幅利下げを見込んでいることとなります。

しかし、議事要旨では早期に0.5%の利下げを意味すると思われる「大胆な利下げ」への支持はコンセンサスとまではなっていないばかりか、反対意見もあるようです。利下げは現状の引き締め水準の調整との位置づけなのかもしれません。

もっとも、7月のFOMCが開催されていたころ、市場では年内3回の利下げを見込んでいました。市場で利下げ回数の織り込みが進んだのは、図表2にあるように、8月月初に発表された7月の米雇用統計を受けてです。失業率が4.3%と想定以上に急上昇したからです。7月のFOMCの段階ではこの数字を見ておらず、議事要旨は、この点では、すでに「古い」情報であると考えられます。

今週末にはジャクソンホール会議が開催され、23日にはパウエル議長の基調講演が予定されています。また、ジャクソンホール会議に参加する他のFOMC参加者の発言機会も会議の前後に増えることが想定されます。そこでの注目点は、9月に利下げが開始されるのは所与として、1回の利下げ幅が0.5%のような 大胆な利下げを支持するのかどうかや、来年以降の金融政策、より具体的には利下げ回数についての想定についてヒントを与えてくれるかどうか、であるとみています。

市場は年内4回の利下げに加え、来年は5回程度の利下げを織り込んでいるようにみえます。FOMC参加者が市場と同程度に利下げの必要性を感じているのか現時点では不明です。FOMC参加者が利下げ回数を公言することはないでしょうが、議事要旨でも常に市場の織り込みを意識していることがわかります。「市場は利下げを期待し過ぎているようだ」、など間接的な表現になるとは思われますが、認識に違いがあるのか当局の発言に当面は注意が必要です。市場と当局の利下げに対する認識に大きなギャップがあれば市場変動の要因となることが懸念されます。

インフレ鈍化への確信は高い一方、労働市場に対する認識に注意が必要

最後に、議事要旨から経済認識について確認します。インフレについては図表1にあるように減速傾向は明らかです。議事要旨でも2%の物価目標達成への確度が高まったトーンとなっています。

一方で、労働市場への懸念は強まっているようです。多数のFOMC参加者は利下げが遅れすぎたり、小幅過ぎたりした場合、雇用を不要に弱めるリスクがあると議事要旨で指摘しているからです。

なお、8月21日に米労働省は非農業部門就業者数の年次基準改定で、23年4月から24年3月の間の就業者数を81.8万人引き下げました(図表3参照)。1ヵ月当たりでは約6.8万人の下方修正と見積もられます。この期間の雇用者数の伸びは合計で290万人増程度(月平均で24.2万人増)だったことから、「強い」と思われていた労働市場の見方が変わることも想定されます。不思議なまでに強いと思われていた米労働市場に修正の余地もありそうです。議事要旨でも就業者数の強さは過大評価されていた可能性が指摘されていたように、FOMC参加者にも問題意識はあったようですが、今回の改定を踏まえた当局の労働市場に対する認識にも注目しています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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