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米CPI、主役の座を奪い返すまではなさそうだが
梅澤 利文
2024/10/11

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概要

米労働省が発表した9月のCPIは前年同月比で2.4%上昇し、市場予想を上回りました。エネルギーと食品を除いたコアCPIも前年同月比で3.3%上昇しました。市場のインフレへの懸念は低下し、9月のCPIからはインフレ再加速を深刻に懸念する必要はなさそうです。しかし、財価格の底打ちや、エネルギー価格の変動、サービス価格の減速の鈍さなどは拙速な利下げペースを抑える要因になるかもしれません。




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9月の米CPIは想定ほどには減速せず、市場予想を上回る伸びとなった

米労働省が10月10日に発表した9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で2.4%上昇と、市場予想の2.3%上昇を上回りました(図表1参照)。前月は2.5%上昇でした。短期的な動向を示す前月比は0.2%上昇と、市場予想の0.1%上昇を上回りました。8月は0.2%上昇でした。

エネルギーと食品を除いたコアCPIは前年同月比で3.3%上昇と、市場予想、8月(共に3.2%上昇)を上回りました。前月比も0.3%上昇と、市場予想の0.2%上昇を上回りました。8月は0.3%上昇でした。9月の米CPIにおいて、図表1に示した4つの系列は、市場が見込んでいたほどには減速しなかったことから、すべて市場予想を上回りました。

財価格は9月はプラスに転じたが、今後も継続するのか見極めが必要

9月の米CPIが発表された直後、米国債市場では一時利回りが上昇するなど、9月のCPIが市場予想を上回ったことに対する反応がありましたが、一時的にとどまりました。市場のインフレに対する感応度の低下がうかがえます。

ただし、9月のCPIの変動には注目すべき点も見られます。CPIの前月比の変動をエネルギー、食品、財、及びサービスの4項目に分類し、項目別に寄与度を算出して特色を振り返ります(図表2参照)。

プラスに寄与した項目はサービス、食品、財でした。一方でエネルギーはマイナス寄与でした。

自動車や衣類などモノの値段を示す財は、過去半年ほどマイナスの寄与が続きましたが9月はプラス寄与となりました。品目をみると、衣類が9月は前月比で1.1%上昇と、8月の0.3%上昇を大幅に上回りました。中古自動車は0.3%上昇と、8月の1.0%減、7月の2.3%減からプラスに転じました。その他では家具などの伸びも目立ちました。

食品は9月が前月比0.4%上昇と、8月の0.1%上昇を上回りました。卵や野菜など個別品目の上昇による短期的な押し上げが背景とみられます。

エネルギーは9月が前月比1.9%減とCPIの下押し要因でした。ガソリン価格の下落がエネルギーの下押し要因でした。一方、前月下落した電力やガス価格は9月にプラスへ転じており、ガソリンが下げを主導した格好です。ガソリンの実際の販売価格を見ると、9月までは下落傾向が見られます(図表3参照)。しかし10月は中東情勢の悪化による原油価格の上昇に伴い、ガソリン販売価格に底打ちの兆しがみられます。今後の原油価格やガソリン価格の動向に一応注意は必要です。

サービス価格は減速するもペースは緩やかで利下げを急がせない可能性

サービス(除くエネルギー・サービス)は前月比で0.4%上昇と前月と同じ伸びでした。図表2の寄与度でみても引き続き押し上げ要因です。

9月に伸びが大きかったのは、医療サービス、自動車保険、自動車修理、レンタカーなどです。また航空運賃も前月比3.2%上昇と、8月の3.9%上昇に続き高い伸びとなりました。なお、娯楽や通信サービスなどは落ち着いた動きで、サービス価格は幅広い品目で価格が上昇するという、懸念すべき状況ではないように思われます。

米CPIのサービス指数の構成割合で半分以上を占める住居費は前月比0.2%上昇と8月の0.5%上昇を下回りました。前年同月比でも4.9%上昇と、前月の5.3%上昇を下回りました(図表4参照)。住居費はピーク時には8%を超えていたのに比べ減速傾向ですが、水準としては、コロナ禍前を上回っています。サンフランシスコ連銀が発表したペーパーを見るとコロナ禍前の住居費は3.3%程度で、9月の4.9%はこれを依然上回っているからです。先のペーパーでは住居費がコロナ禍前の水準に低下するのは25年春と見込んでいますが、不確実性も高いと指摘しています。不確実性の高さは前月比の変動にその一面がみられ、9月は前月比0.2%上昇と鈍化が期待される水準でした。しかし、8月は0.5%、7月は0.4%上昇した後だけに、反動減に過ぎないかもしれません。9月の数字だけで安定的な低水準での推移と判断するのは時期尚早と思われます。コロナ禍による住宅需要の強さと、反対に住宅供給不足などが住宅価格の調整を遅らせたことなどから住居費の減速ペースは当初の想定より遅れ気味です。住居費を含めたサービス価格の減速ペースの鈍さは「利下げを急がない」方針と概ね整合的と筆者はみています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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