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ECBの今後の利下げを景況感指数などから占う
梅澤 利文
2024/10/29

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概要

欧州中央銀行(ECB)の今後の金融政策をユーロ圏の景況感などから占うと、ユーロ圏の製造業PMI指数は底打ちの兆しは見られるものの、水準は景気拡大・縮小の判断の目安である50を下回っており、当面利下げによる下支えが必要と思われます。また、貸出への需要は24年7月の利下げ開始から回復の動きがみられるも、回復を軌道に乗せるには、一段の追加利下げがECB に求められそうです。




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ユーロ圏10月のサービス業PMIは前月を下回り、製造業は依然低水準

米S&Pグローバルが10月24日に発表した10月のユーロ圏製造業購買担当者景気指数(PMI)は、速報値が45.9と、市場予想の45.1、前月の45.0を上回りました(図表1参照)。サービス業PMIは51.2と、市場予想の51.5、前月の51.4を下回りました。総合PMIは49.7と、前月の49.6から0.1ポイント上昇したものの、好不況の目安である50を2ヵ月連続で下回りました。

国別ではフランスのサービス業PMIが47.3と、9月の48.6を下回りました。8月は55.0と五輪に伴い景況感が大幅に改善しましたが、五輪の効果は剥落しています。一方、ドイツの製造業PMIは10月が42.6と前月の40.6を上回りました。

製造業景況感はコスト上昇などを受け低水準が続くが底打ちの兆しも

欧州中央銀行(ECB)の金融政策を占ううえでは、ユーロ圏の景気動向とインフレ鈍化のバランスを見極めることが重要ですが、当レポートではユーロ圏の景気動向に関連する指標から金融政策を左右すると思われるポイントを述べます。

ユーロ圏の代表的な景況感指数であるPMIは総合が2ヵ月連続で50を下回りました。指数の内訳をみると、下支えしていたサービス業PMIは五輪を含め夏の観光シーズンが一服したことから上昇の勢いが鈍りました。ただし、五輪後の反落は一時的な低下要因である可能性もあり、来月以降のサービス業PMI の展開を見守る必要があります。

製造業PMIはECBが利上げを開始した22年7月から50を下回っています。利上げ以外にも、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を受けロシアからのエネルギー輸入を見直したことによるコストの上昇、最大の貿易相手国である中国経済の不振、自動車産業の伸び悩みなど山積みの悪材料が製造業の景況感を押し下げたとみられます。特に製造業を主力産業とするドイツの製造業PMIは9月が40.6と、過去1年の最低値で、景気後退が想定される水準にまで悪化しました。10月末に発表が予定されているドイツの7-9月期GDP(国内総生産)成長率は市場予想が前月比0.1%減と、4-6月期に続いてマイナス成長が見込まれています。

しかし、10月の製造業PMIについて、発表元は声明文で、ドイツ、フランス以外のユーロ圏の国々(周縁国)は過去4ヵ月で最も速いペースでの生産回復がみられたと指摘しています。今後発表される周縁国の指標も確認する必要があります。

また、ドイツの10月の製造業PMIは42.6と9月を上回っています。ドイツ企業の景況感は別の指標でも10月に改善が見られました。ドイツ(独)Ifo経済研究所が25日に発表した独Ifo企業景況感指数は86.5と前月を上回りました。市場の注目度が高い、先行きを示唆する、期待指数も87.3と、前月の86.4を上回りました(図表2参照)。

10月の景況感指数は単月で先月を上回ったにすぎません。ECBのラガルド総裁も単月の動きで金融政策を変更しないと繰り返し指摘しています。しかし、ECBが7月に利下げを開始したことや、貿易相手国の中国で景気刺激策が発表されたことなどはドイツの製造業を下支えする要因となる可能性もあります。ドイツの景気底打ちと即断はできませんが、推移を見守る必要はありそうです。

企業や家計向け融資は回復の兆しが見えた段階にすぎない

ユーロ圏の経済は銀行からの貸出しの比重が小さくはないことからECBの銀行貸出調査で貸出し動向を振り返ります。

まず、企業の融資への需要(3ヵ月先、図表3参照)を見ると、(ネット)需要は24年7-9月期、10-12月期とプラスを確保するとみられます。ECBが利上げを開始した後、企業の融資需要は概ねマイナス圏での推移が続いていましたが、ようやく回復の兆しが見られ始めました。

もっとも、10-12月期の銀行への貸出し需要を企業の規模別にみると、大企業はネットでプラスを確保する見込みであるのに比べ、中小企業の需要回復は鈍いなど回復の程度に違いもあります。

利下げ開始を背景に企業の融資への需要に回復の機運がみられますが、これが景気回復を伴う本格的な融資需要の回復に展開するのか、判断にはまだ時間が必要と思われます。

家計部門の融資への需要も改善の兆しは見られます。ただ、家計融資の大半を占める住宅ローン金利の低下は小幅にとどまっています。ECBの利下げが本格化し、住宅ローン金利が一段と低下することが家計の融資需要の回復に求められます。

景況感指数や銀行貸出は回復の兆しが見え始めたにすぎず、水準は低いことから、これらのデータだけから判断すれば、ECBは断続的な追加利下げを求められそうです。そうした中、筆者の見通しではECBは0.25%刻みの利下げを基本とし、大幅利下げは景気悪化時にとどめそうです。また最終的に政策金利(中銀預金金利)を2%程度に引き下げることが当面のゴール(ターミナルレート)とみています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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