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11月FOMC議事要旨、利下げはゆっくり慎重に
梅澤 利文
2024/11/28

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概要

11月26日に公開された米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨では、11月のFOMCの利下げの背景を説明すると共に、今後は経済が予想通りなら時間をかけて政策金利を中立的な水準まで引き下げることが適切となる公算が高いと指摘しています。ただ、12月FOMCでの利下げの有無についてのヒントは限定的でした。なお議事要旨ではFRBのバランスシート政策についても言及がありました。




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11月FOMCは市場予想通りの利下げながら今後の利下げペースに変化も

米連邦準備制度理事会(FRB)は11月26日、米連邦公開市場委員会(FOMC、11月6〜7日開催)の議事要旨を公開しました。11月のFOMCでは政策金利(フェデラルファンド(FF)金利)の誘導目標を市場予想通り0.25%引き下げ4.50%~4.75%としました(図表1参照)。

11月FOMCは驚きのない利下げでしたが、最近の経済指標やFOMC参加者の発言から、次回(12月)以降のFOMCで利下げペースに変化があるとの見方が大勢を占めています。議事要旨では今後の金融政策について経済指標が予想通りなら「時間をかけて政策金利を中立的な水準まで引き下げることが適切となる公算」と指摘しています。

FOMC参加者は緩やかな利下げがコンセンサスだが、トーンに違いも

11月の議事要旨は、市場予想通りに利下げをしたFOMCの内容を伝えるもので、新たな材料には乏しかったものの、利下げペースが緩やかになる公算が高いことが確認されました。なお、議事要旨からはFRBのバランスシート(B/S)政策についての記述も見られました。

11月のFOMC議事要旨で示唆された緩やかな利下げペースはFOMC後の参加者の発言からもうかがえます(図表2参照)。

今後利下げペースが緩やかになる公算が高いことは、パウエル議長やクック理事などの発言からも想定されます。インフレは鈍化傾向であることから利下げは続けられるとの見方も根強く残りますが、ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁が述べるようにまだ目標の2%に達していないとの見方は優勢なようです。

なお、9月のFOMCでの大幅利下げに反対票を投じたボウマン理事は、図表2にはありませんが、追加利下げを慎重に進めるべきと述べています。このことからもボウマン氏は利下げそのものに反対しているわけではなく、9月のような大幅な利下げに反対しただけとみられます。

「緩やかな利下げ」がFOMCのコンセンサスとしても、「12月に利下げを続けるのか?」、「政策金利をどこまで引き下げるのか(ターミナルレート)?」、については不確実性が残されています。

緩やかな利下げでは利下げをスキップ(見送る)会合もありますが、12月が見送りか、それとも利下げ継続か、市場の織り込み度合いを先物市場などで見ても見方は分かれています。ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁のように12月利下げの可能性を残す発言もあります。12月に発表される米雇用統計や消費者物価指数(CPI)などを判断材料に加え最後まで分析を続けるものと思われます。

利下げでどこまで政策金利を引き下げるかは、まだ先のことですが、利下げの到達点として中立金利(景気を吹かしも冷やしもしない金利水準)が意識されてるだけに目先の政策に影響する可能性もあります。シカゴ連銀のグールズビー総裁は自身が見込む中立金利の水準は当局者の予想中央値に近いとしたうえで、まだ利下げ余地が(十分に)あるというトーンの発言をしています。しかし、スワップ市場が織り込む中立金利の水準は恐らく当局者の予想中央値より高いとみられます。話を単純化すれば、9月のFOMCで示された当局者の予想中央値通りなら、現在の政策金利はかなり引き締め領域にあり、利下げ余地は十分に残ることになりそうです。ただ、中立金利は幅を持って見る必要もあるだけに判断は難しく、さらなる情報収集が必要です。

議事要旨でB/S政策が語られたのは、将来のQT終了の準備なのだろうか?

今回の議事要旨ではB/S政策についての記述が目を引きました(図表3参照)。なぜ今回この話題が取り上げられたのか本当のところは分かりません。ただし、筆者の印象では、9月末にマネーマーケット市場の一部で変動が大きかったことから、市場流動性の確認の意味でB/S政策が検討されたのではないかと考えています。なお、マネー市場の変動は米国債の決済が重なったことなどテクニカルな理由が背景であったと指摘しています。

FRBは22年6月ごろから量的引き締め(QT)を開始して、B/Sの規模を縮小させ始めています。今年6月からは、翌日物リバース・レポ(ON RRP)の利用が減る中、QT(保有資産削減)のペースを遅らせました。今後の注目はQT終了時期で、このことは流動性供給のもととなり、残高が3兆ドル超となっている準備預金残高をどこまで低下させるかという問題に帰着します。議事要旨では市場予想は25年5月ごろを終了時期と見込んでいることを紹介しています。年内といった短期的観点からは流動性リスクを過度に懸念はしていないかもしれません。一方で、今後の課題としては、リバースレポ金利の引き下げや、債務上限問題が準備預金に与える影響などに関心が高いようです。なお、半年ほど前、市場の一部はリバースレポ残高減少の影響を懸念していましたが、あくまで重要なのは準備預金残高であると筆者はみています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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