- Article Title
- 12月の米雇用統計プレビュー:ADPと求人件数
今週最大の注目指標は米労働省が1月10日に発表する12月の米雇用統計だろう。これに先立ち米労働市場関連指標として11月の雇用動態調査(JOLTS)や、12月のADP雇用報告などが今週発表された。いずれの指標も米労働市場の底堅さを示す一方で、一部に注意すべき点も見られた。FOMC参加者は追加利下げのペースを緩和させる方向だが、具体的なペースは今後の経済指標次第のようだ。
米11月の求人件数は市場予想を大幅に上回ったが、一部に注意も必要
米労働省が1月7日に発表した24年11月の雇用動態調査(JOLTS)によると、非農業部門の求人件数(速報値)は809.8万件と、市場予想の774万件、前月の783.9万件を上回った(図表1参照)。11月の求人件数の変動を部門別に見ると、増加したのは主に専門職・ビジネスサービスと金融・保険によるものだった。特に専門職・ビジネスサービスは前月に比べ27.3万件増加している。一方、娯楽・外食や製造業などでは求人数が減少した。米金融当局が注視する失業者一人に対する求人件数の割合は1.1で10月と同じだった。
自発的離職者の割合である離職率は1.9%と、前月の2.1%を下回り、離職率は新しい職を見つける活動が鈍くなったと見られる結果だった。
雇用動態調査やADP雇用報告は全般には労働市場の底堅さが示された
今週最大の注目指標は10日に発表される12月の米雇用統計だが、その準備として他の雇用関連指標を振り返ると、強弱まちまちな内容だった。
11月の求人件数は800万件台と、市場予想を大幅に上回り、米労働市場の強さが示唆された。求人件数は2ヵ月連続で前月を上回り、22年からの減少傾向に底打ち感が出たようにも見える。
しかし、部門別に求人数の推移をみると、金融・保険や専門職・ビジネスサービスなどの求人件数は前月を上回った一方で、製造業、小売り、輸送業、情報産業、娯楽・外食など幅広い部門で求人件数が前月を下回った点で力強さに欠ける印象だ。
また、自発的離職者の割合である離職率は、数字が高いと転職活動が活況であることを通常示唆するが、こちらは前月を下回った。失業者一人に対する求人件数の割合は11月が1.1で、5ヵ月同水準で推移している。同割合は米労働市場が過熱していた22年頃は2前後と高く、求人件数が(失業者数に対し)豊富だったが、筆者は足元の同割合の水準は加熱でも、悪化でもない、落ち着いた水準に向かっていると解釈している。
雇用動態調査で注目される求人件数が大幅に増加したが、来月以降も持続的な増加とならない限り、米労働市場の大幅な再加速とみる必要は現時点ではないと考えている。
次に、8日に米民間雇用サービス会社ADPが発表した12月のADP雇用報告を振り返る。
同報告によると、非農業部門の雇用者数(政府部門は除く)は前月から12.2万人増と、市場予想の14.0万人増、前月の14.6万人増を下回った(図表2参照)。業種別では教育・医療サービス、建設、娯楽などが伸びた一方で、製造業、鉱業、専門職・ビジネスサービスは軟調で部門間に気になる偏りは見られなかった。ADP雇用報告の雇用者数からは、米労働市場の緩やかな鈍化、もしくは正常化が継続していることが示唆されよう。
ADP雇用報告では賃金動向(年収)にも正常化が示されたとみている。同じ職にとどまった人の年収は12月が前年同月比で4.6%増と、前月を下回った。米労働市場が過熱した時、賃金を押し上げる主な要因でもあった転職した人の年収は同7.1%増と、前月の7.2%増を下回った。転職者年収は昨年9月から上昇傾向であっただけに、12月の数字は一応、一服感が見られた格好だ。
なお、ADP雇用報告の雇用者数や年収の伸びの推移から鈍化傾向は明らかだ。しかし筆者は「悪化」とは見ていない。足元の金利上昇などコストが高止まりする中で、全体としては雇用を増やしている現状は、過熱感の後退としての「正常化」局面と見ている。
FOMC参加者は今後利下げペースについて意見が割れているようだ
最後に、米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の年初のコメントを簡単に振り返ろう(図表3参照)。総じて言えることは、インフレ鈍化のペースは緩やかで、労働市場は底堅いことから、利下げペースを減らすのが適当ということだ。クック理事やアトランタ連銀のボスティック総裁が述べた「慎重」なアプローチは利下げペースを遅らせることを示唆するものだ。ただし、12月のFOMCで示唆された年内2回の利下げを慎重といっているのか、さらに減らすべきことを意味しているのかまでは、これらのコメントだけでは判断しづらい。
一方、市場の一部でささやかれる、利下げ終了、もしくは利上げ再開までを先読みしたコメントは当局者からはこれまでのところ見当たらないようだ。サンフランシスコ連銀のデーリー総裁のように、インフレ対応の必要性を求めつつ、バランスの取れた労働市場への配慮を指摘する声もある。発言内容が注目されるウォーラー理事も(条件付きながら)追加利下げを支持している。
追加利下げのペースを緩和させる方向は一致するも、その程度について、FOMCのコンセンサスが形成されるのは今後のデータ次第のようだ。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。