- Article Title
- 日本の財政から投資の必要性が見えてくる⑦~赤字国債と財政法~
日本の財政法(1947年)は赤字国債の発行を原則禁止していますが、例外的に発行を認める「特例公債法」が長年繰り返し制定されており、財政法が機能していないともいえます。
■赤字国債の発行を禁じる「財政法」
1946年(昭和21年)11月に交付された日本国憲法の民主的性格を反映した財政法(図表1)が1947年(昭和22年)3月に成立しました。この財政法では、財政の健全性の原則を確立するため、第四条で、公債や借入金を財源として賄うべき経費を公共事業等生産的又は資本的なものに限定しています。建設国債注1については限定的に発行を認める一方、財政赤字の補填を目的とする赤字国債については原則発行を禁止するという内容です。ちなみに、第五条では、公債発行について日本銀行が直接引き受けると財政インフレにつながる恐れがあることから、日本銀行の公債引受けを原則禁止としています。
注1:財政法第四条第一項ただし書きに基づいて発行される国債のこと
図表1:財政法(一部抜粋)
■特例公債法と赤字国債発行の常態化
財政法の制定以降、赤字国債の発行を行わず財政運営を行ってきたものの、1965年に1年限定で赤字国債を発行しました。これは前年の東京オリンピックの反動による景気悪化を食い止めるための例外的な対応でした。それ以降、赤字国債の発行はありませんでしたが、1975年に高度経済成長の陰りやオイルショックが重なったことで日本経済は慢性的な税収不足に陥ってしまい、政府は財源確保のために特例公債法を成立させ、赤字国債の発行を可能にしました(図表2)。その後、日本政府は財政再建を目指し、1983年には「1980年代経済社会の展望と指針」が閣議決定され、1990年度までに公債依存度を引下げることが努力目標として示されました。
図表2:財政関連法の動き
バブルによる税収拡大も発行額減額に寄与し、実際に、1990年度の当初予算では赤字国債の発行がゼロ(実績ベースでは約9,700億円発行)となり、1991年度から1993年度までの3年間では実績ベースでもゼロとなりました。しかしながら、1994年度には赤字国債の発行が再開され、現在にいたるまで常態化し、普通国債残高は増加の一途をたどっています(図表3)。これは、当初、財政の健全性の確保から設けられていた赤字国債発行の歯止装置が失われてしまったことに起因すると考えられます。歯止装置とは、「赤字国債は現金償還を原則とすること」と「特例公債法は単年度法とすること」です。現金償還の原則は、赤字国債の無制限な発行を防ぐため、満期までに全額償還し、借換償還は行わないというものでしたが、1984年の特例公債法で、「償還のための起債は、国の財政状況を勘案しつつ、できる限り行わないよう務めるものとする」という努力規定に変更され、また、1998年には借換禁止規定さえも削除されたことで、発行額が著しく増加しました。さらに、単年度法としていた特例公債法も、複数年度化し、発行期間を5年間に延長する改正特例公債法が2016年3月に成立したことで、単年度毎に赤字国債発行限度について国会で審議するという歯止めさえも失うことになりました。2021年には同じく5年間の延長を認める法案が可決されました。
図表3:普通国債残高(復興債、建設国債、特例国債等)の推移
出所:財務省のデータを基にピクテ・ジャパン作成
※普通国債残高は年度末時点の額面ベース。
※令和4年度までは実績、令和5年度は補正予算ベースの見込み、令和6年度は当初予算ベースの見込み。
このように、赤字国債発行の歯止装置が失われたことにより、日本の政府債務残高は急速に膨張し、世界最悪の水準となっています。そのため、直接的な目的ではないとしても、やはりインフレによる政府債務の実質的な削減が必要であるといえます。一方で第二次世界大戦時のような激しいインフレによる債務削減は現実的でないことを考えると、長期的なインフレターゲットの達成が重要であり、それは即ち運用の必要性も長期にわたって存在し続けることを意味します。
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。
手数料およびリスクについてはこちら
関連記事
日付 | タイトル | タグ |
---|---|---|
日付
2024/05/30
|
タイトル 日本の財政から投資の必要性が見えてくる① ~投資とお金について~ | タグ |
日付
2024/06/13
|
タイトル 日本の財政から投資の必要性が見えてくる② ~インフレについて~ | タグ |
日付
2024/06/26
|
タイトル 日本の財政から投資の必要性が見えてくる③ ~政府債務削減について~ | タグ |
日付
2024/07/10
|
タイトル 日本の財政から投資の必要性が見えてくる④ ~日本政府の財政状況について~ | タグ |
日付
2024/07/25
|
タイトル 日本の財政から投資の必要性が見えてくる⑤ ~日本銀行の金融政策と課題~ | タグ |
日付
2024/08/08
|
タイトル 日本の財政から投資の必要性が見えてくる⑥ ~日本銀行のバランスシートを別角度から検証~ | タグ |
日付
2024/09/05
|
タイトル 日本の財政から投資の必要性が見えてくる⑧ ~「やはり、投資は必要」~ | タグ |
日付
2024/09/19
|
タイトル 日本の財政から投資の必要性が見えてくる⑨ ~日本の財政に求められること~ | タグ |