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- 日銀、閉会中審査などで利上げ姿勢維持を表明
日銀の植田総裁は8月23日に閉会中審査に出席し、7月の追加利上げ後に起きた株式市場の下落との関係や、今後の金融政策運営について説明を求められた。植田総裁は市場の混乱は米国の雇用統計に反応したと述べる一方で、今後の日銀の金融政策について利上げ姿勢維持を示唆した。当面は市場の混乱を注視する姿勢ながら、賃金と物価の好循環をじっくり見極める構えだ。
日銀の植田総裁、8月月初の市場混乱を受け閉会中審査に出席
日銀の植田総裁は8月23日、午前に衆院財務金融委員会、午後に参院財政金融委員会の閉会中審査に出席した。閉会中審査は国会が閉会している間、必要に応じて重要な案件を審査するために開くものだが、金融市場の波乱を受けて与野党が開催を決めた。
植田総裁は、7月に決定した追加利上げの経済・物価への影響を見極めつつ、「見通しの確度が高まっていくことが確認できたら、金融緩和の度合いを調整していく」と述べ、市場環境に配慮しつつ、利上げ路線を維持する姿勢を示した。なお、植田総裁は過去の利上げ局面と足元では物価を巡る状況が違うことを指摘した(図表1参照)。
8月月初の市場混乱の原因は、米雇用統計の悪化が主な背景との見方
8月23日の閉会中審査における植田総裁の発言に加え、同月7日の内田副総裁の函館での講演、28日の氷見野副総裁の甲府での講演から浮かび上がる主な論点は次の3点とみている。
①日銀の利上げは8月月初の株価暴落の直接の原因ではないと考えられること
②日銀の利上げ姿勢は基本的に変化がないこと
③②の背景として現在の政策金利は低水準とみていること、経済や物価環境こそが利上げを支持する要因であること
①閉会中審査に日銀総裁が出席するのは衆院では2010年9月以来と、ある意味異例の対応だ。国会が閉会中審査に日銀総裁招致を決めたのは8月6日で、株価が暴落した直後であることから招致の理由は明白だろう。
しかし、植田総裁が「米国の景気減速懸念が急速に広がった」ことを市場の乱高下の原因と説明したことに国会議員から目立った反論はなかった。市場の混乱から時間が経過したことで、冷静な見方が広がったのかもしれない。日本の緩やかな利上げに疑問の余地は少なく、筆者も利上げ自体に異論はない。ただし、利上げの唐突感もあり、コミュニケーションには課題が残ると思われる。
当面は市場の混乱を注視するも、金融緩和を調整する姿勢は変わらず
②の日銀の利上げ姿勢については、植田総裁の発言と共に、内田、氷見野両副総裁の発言にも注目するべきであろう。
植田総裁は閉会中審査で「経済、物価の見通しが私たちの考えている通りに実現していくという確度が高まっていくことを確認できれば、今後、金融緩和の度合いを調整していくという基本的な姿勢に変わりはない」と明言した。展望レポートに沿って経済・物価が推移するなら、利上げ姿勢に変化がないという趣旨だろう。この点も国会議員には受け入れられたようだ。
なお、8日に内田副総裁が「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」との発言と矛盾するのではという指摘や質問があった。これに対し、植田総裁の答えは明確でなかった。しかしながら、急激で制御不能なハイパーインフレを原因とした株式市場の下落局面などであれば話は別だが、今回のような市場の混乱の中で利上げを控えるのは、どこの中央銀行も同じではなかろうか。23日の植田総裁、最近では28日の氷見野副総裁共に市場は不安定で当面は注視を続けると述べており、総裁、両副総裁の間で市場混乱に対する姿勢は共有されているようだ。
また、市場の混乱が落ち着き、展望レポート通りに経済、物価が推移すれば利上げ(金融緩和の度合いを調整)を続ける姿勢も共有しているとみられる。3名の発言のわずかな差異にこだわるよりも、「当面は市場混乱を注視するが、利上げ姿勢に変化なし」と身構えた方がよさそうだ。
ただし、市場の混乱を測る定まった測定方法があるとは思えない。市場の混乱の終わりについては日銀の迅速なコミュニケーションを期待したいところだ。
③に関連し7月の追加利上げの背景や、今後の利上げについては展望レポートが参考になろう。
今後の物価動向や利上げシナリオに賃金やサービス価格が大きく影響
7月末の追加利上げの背景を、植田総裁は物価上昇率の基調が(展望レポートに示される)日銀の見通し通りに推移し、2%の物価目標達成の確度がより高まったためと説明した。今後についても、日銀の想定と実際の物価動向をもとに政策判断をするということだが、植田総裁は追加利上げを決定した背景として、円安が物価見通しに影響したことにも言及している。円安の影響を無いとした4月の会合とは大違いだ。
日銀の7月の展望レポートの(物価を取り巻く環境)の個所で輸入物価が原油価格と円安の影響で上昇していると明記していることと、植田総裁の発言は整合的だ。なお、前回(4月)の展望レポートでは円安は要因として指摘されておらず、日銀の円安に対する認識の変化がうかがえる。
円安要因もさることながら、今後の物価動向、追加利上げシナリオには賃金、サービス(価格)の影響が大きく左右しそうだ。7月の展望レポートで日銀は生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)であるコアCPIが24年度で前年度比2.5%上昇、25年度で2.1%上昇を見込んでいる。生鮮食品、エネルギーを除いたコアコアCPIでは、24年度が1.9%上昇、25年度も1.9%上昇を見込んでいる。見通しの達成には賃金と物価の好循環が主要な役割を果たすことが期待されるだろう。
7月末に日銀が追加利上げの決定を発表した数日前に、東京都区部の7月分のCPIが発表された(図表2参照)。8月30日に発表された8月の東京都区部コアCPIは前年同月比で2.4%上昇、サービスCPIは前月比で0.3%上昇と、日銀の追加利上げ姿勢を一応維持する数字であった。
しかし、追加利上げ決定前の7月分ではサービスCPIは前月比0.0%だった。7月の会合後の記者会見で、サービスCPIの回復は半信半疑といった質問もあった。植田総裁の説明はサービス価格も詳細にみると上昇傾向と述べるにとどめた。
確かに、展望レポートや、日銀が8月後半に発表したペーパーではサービス価格設定行動に変化があることが示されている。同じサービス部門でも、外食などの価格は前年比では伸びが縮小しているが、人件費の影響を受けやすい教養娯楽などでは前年比の寄与度がプラス幅を拡大させているからだ。企業の価格設定行動の前向きな変化を指摘している。日銀はサービス価格についての詳細な分析で角度を高めていたようにも見える。ただし、このような要因のみで日銀が見通す物価目標を達成するのかについては、疑問が残る。やはり物価目標の達成には全体的な景気の持続的回復も併せて必要だろう。
なお、展望レポートや、氷見野副総裁は発言の中では、「現状の政策金利がかなり緩和的な金融環境であるのは事実」と述べ、政策金利水準の変更の必要性を示唆している。7月の追加利上げの背景として、この点も理由として挙げられている。しかし、緩和的な金融環境は今の体制で始まったというよりは、過去の政策の遺産という面がある。緩和的な金融環境だけが理由ならもっと前に利上げがあっても不思議ではなかろう。市場にショックを与えずに緩和環境を解消するには適切な経済環境の下での利上げ決定と、市場との対話の積み重ねが求められよう。
筆者の見解に基づく当面の見通しは、市場と選挙を考えると、9月や10月会合での追加利上げは、データ次第ではあるが、やや難しそうだ。次の利上げでは「0.5%の壁」を意識する利上げとなるだけに、景気回復を確かめたうえでの決定になるとみており、12月会合を追加利上げの候補としている。ただし、政治は不透明要因だ。
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