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- 英国議会EU離脱合意案採決否決で見えたこと
今日のヘッドライン19年1月15日号で述べたように、採決否決という結果には驚きはありません。ただ、230票差での否決は合意案への反対が想定より根強かった印象です。この結果を踏まえ、今後の展開を補足します。
英国EU離脱合意案採決:メイ政権の合意案は歴史的大差で否決
英国議会(下院)は2019年1月15日、メイ首相が欧州連合(EU)と取り決めた離脱合意案の採決で、反対432、賛成202で否決しました。与党の採決が230票差で否決される歴史的(1918年来で最大の)敗北となりました。
労働党はメイ政権を総選挙に追い込むことを目指し、不信任案を提出しました。採決はロンドン時間16日午後7時(日本時間17日午前4時)に行われます。
一方、メイ首相は採決後、メイ政権を閣外協力で支えてきた北アイルランドの民主統一党(DUP)や超党派の有力議員らとの協議、今後の方策を検討している模様です。
どこに注目すべきか:離脱合意案、採決、国境問題、再国民投票
今日のヘッドライン19年1月15日号で述べたように、採決否決という結果には驚きはありません。ただ、230票差での否決は合意案への反対が想定より根強かった印象です。この結果を踏まえ、今後の展開を補足します。
採決後の動きが2つ見られました。野党の不信任案提出とメイ首相の合意案再提出の準備です。
まず、野党労働党のコービン党首が内閣不信任案を提出しましたが、不信任案は退けられるとの見方が大半です。労働党は不信任可決、総選挙の流れに期待しているようですが実現性は低いと思われます。
むしろ、総選挙という点では、メイ首相が採決結果の責任を取る形での総選挙も視野に入れる必要があります。
次に、メイ首相の合意案再提出の動きですが、報道ではメイ首相がDUPや超党派の有力議員らと協議のうえ合意案を再提出する構えであると伝えられています。ただ、協議の時間は原則1月18日まで(法的拘束力は無く、数日の延長可)と期間が短い上、合意案は230票もの大差で否決されているため、協議への期待は低いと見られます。
採決否決後のEU各国やEU首脳の反応は、一様に採決への失望を示すにとどまり、合意案への譲歩を認める動きは見られません。例えば、フランスのマクロン仏大統領は英国の内政問題解決に譲歩することは無いと述べています。また、 EUのトゥスク大統領は唯一の解決策は残留(英国がEU離脱をあきらめる)との考えを述べています。
では、採決否決後の動きを踏まえて、今後の注目点はEU基本条約(リスボン条約)50条に基づく3月29日の離脱期限の延長であると思われます。総選挙であれば2ヵ月程度、EUのトゥスク大統領が示唆した残留を問う国民投票であれば半年程度が必要だからです。
何が次の一手となるのかを断定することは困難ですが、期限が刻々と迫っていることは確実で、時間稼ぎも必要なことから、欧州議会選挙が5月に控えているとはいえ、期限延長を模索する動きが市場でも想定されており、ポンドも比較的落ち着いた動きにとどまっています。
ただ、無秩序離脱という最悪シナリオが起きないのは期待に支えられているに過ぎない点に注意は必要です。不確実性への感応度が高い信用スプレッドは英国で拡大(信用力悪化)しています。例えば、英国社債のスプレッド(対国債)は拡大傾向です(図表1参照)。過去1年のスプレッド拡大は米国でも拡大していることから、EU離脱の不確実性だけが原因では決してありませんが、16年は米英同様の拡大を示した後、英国の拡大が上回るのは、EU離脱の不確実性の反映と見ています。同様の不安は信用の保険であるクレジット・デフォルト・スプレッド(CDS)市場でも見られます。
無秩序な離脱の回避や、悪影響低減への取り組みが続くとの期待が、採決否決後も維持されていると見られますが、時間だけは気になる要因です。
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