Article Title
ECBの戦略的見直し、想定される議論のポイント
梅澤 利文
2020/01/24

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

今回のECB政策理事会では、金融政策よりも正式な公表となる戦略的見直しが注目されました。ただ、プレスリリースに新たな材料はなく、ECBのラガルド総裁の会見でも具体的な内容への回答は基本的に控えられました。一方で、戦略的見直しの内容やプロセスを考える上でのヒントも含まれていたと見ています。



Article Body Text

ECB政策理事会:金融政策は据え置き、戦略的見直しの概要を公表

欧州中央銀行(ECB)は2020年1月23日に政策理事会の結果を公表し、市場予想通り金融政策(預金ファシリティ金利-0.5%;債券購入の月200億ユーロ)を据え置きました。また、フォワード・ガイダンスも変更ありませんでした。

なお、ECBは戦略的見直し(レビュー)についてのプレスリリースを公表し次の4点が示されました。①戦略的見直しが対象とする項目には物価安定の量的定義、金融政策ツール、金融、経済分析、並びに市場との対話が含まれる、②他には金融安定、雇用、(今流行の)環境問題も含むこと、③年末までの完了を目処、④見直しの議論に幅広い関係者を含むこと、が記されています。

 

 

どこに注目すべきか:ECB、戦略的見直し、物価目標、マイナス金利

今回のECB政策理事会では、金融政策よりも正式な公表となる戦略的見直しのプレスリリースなどが注目されました。ただ、その中に新たな材料はなく、ECBのラガルド総裁の会見でも具体的な内容への回答は基本的に控えられました。一方で、戦略的見直しの内容やプロセスを考える上でのヒントも含まれていたと見ています。

まず、戦略的見直しが完了する時期について、ラガルド総裁は恐らく12月をひとつの目処と考えているようです(なお、ECB理事会は12月10日開催予定)。今後1年ほどECB理事会と戦略的見直しは平行して進める考えのようです。ラガルド総裁がECBメンバーなどに戦略的見直しの内容を口外しないよう求めたのは、現行の政策理事会の金融政策と相違する案を検討する場合などへの配慮であったとも考えられます。とすれば、当面、戦略的見直しの議論について、大枠は示されても、具体的内容の公表は控えられるのかもしれません。

戦略的見直しの主要テーマは物価目標の見直しと見られます。03年の前回の見直しからECB物価目標は「中期的に2%を下回るが、2%に近い水準」となっています。

ここで改めてユーロ圏のインフレ率(欧州連合(EU)基準消費者物価指数(HICP)で過去の推移を見ると、大雑把に3つの期間に分けられそうです。概ねリーマンショック前までの「安定期」では2%は目標として機能していたように見えます(図表1参照)。リーマンショック並びに欧州債務危機の頃が「変動期」で、現在は2%を下回る「低水準期」と見られます。

過去の発言を見ると、フランス銀行(中銀)のビルロワドガロー総裁や、12月末に退任したクーレ前ECB理事などが上下に許容範囲を設けた目標への変更を支持しています。現在の2%弱の目標が実務的に「上限」と解釈され、2%に近づくと金融緩和が縮小することを懸念しての発言と思われます。

ラガルド総裁は議論の検討はこれからということで、会見での具体的な回答は控えていますが、インフレ目標を巡る議論が戦略的見直しの主要なテーマと見られます。

会見でマイナス金利(の副作用)についての質問も見られました。ECBがマイナス金利を採用するなか、当然ながら副作用には同調しない論調でした。ただ、低金利が示唆する低成長に対して懸念を示すなど微妙な表現も見られました。

最後に、戦略的見直しのプレスリリースにも記されていたように、ECBの環境問題への取り組みも検討課題に含まれるようです。会見では、国際決済銀行(BIS)による気候変動が金融安定への脅威となる可能性を指摘したレポートを無視することは難しいと述べていることから、ラガルド総裁は見直しに前向きな面が見られます。同時に、グリーン債券の購入などが話題となっていますが、ECB本来の目的である価格安定との整合性は重い課題であると見られます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


FOMC:市場予想通りの利下げながら全体にタカ派

ECB:声明文はハト派ながら会見はタカ派も匂わす

11月の米CPI、市場予想通りの裏側にある注意点

11月の米雇用統計、労働市場の正常化を示唆

米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応