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- 欧州財政事情の見聞録
ユーロ圏の経済指標はサービス業が軟調で、新型コロナの感染再拡大に見舞われた上、ワクチン接種も遅れています。ただ、ユーロは相対的に底堅く、ユーロ圏の国債利回りも上昇傾向です。足元、新型コロナの新規感染者数が低下傾向でワクチン接種も今後は拡大が見込まれるうえ、財政政策への期待の兆しも見られます。
欧州復興基金:欧州委員会が資金調達計画を更新、約8060億ユーロの調達を見込む
欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会(EC)は2021年4月14日、新型コロナウイルス危機に直面した加盟国の経済を立て直す欧州復興基金の資金調達計画を発表しました。21年~26年の調達規模は最大約8060億ユーロ(約105兆円)と、昨年示された当初計画を560億ユーロ上回る規模となる見込みと説明しています。
ECは21年6月を目処に資金を集める準備が出来る予定と説明しています。共通債の発行はEUの統合を進展させ、ユーロの地位向上にも寄与することが期待されます。
どこに注目すべきか:安定成長協定、欧州復興基金、補助金
ユーロ圏の経済指標はサービス業が軟調で、新型コロナの感染再拡大に見舞われた上、ワクチン接種も遅れています。ただ、ユーロは相対的に底堅く、ユーロ圏の国債利回りも上昇傾向です(図表1参照)。足元、新型コロナの新規感染者数が低下傾向でワクチン接種も今後は拡大が見込まれるうえ、財政政策への期待の兆しも見られます。
足元のユーロの底堅さの背景は新型コロナの新規感染者数の落ち着きや、今後、ユーロ圏のワクチン接種が拡大するとの見込みなどが大きな要因と見られます。今回は中長期的視点から財政政策を取り上げます。
ユーロ圏の財政政策は一般に緊縮的です。今から10年以上前の世界金融危機では、世界の様々な地域が深刻な景気後退に見舞われました。各国は金融政策と財政政策を駆使して回復を目指しましたが、ユーロ圏の回復は遅れました。例えば、GDP(国内総生産)が世界金融危機前の水準に戻った時期で比較すると、ユーロ圏は米国に数年遅れていたと見られます。
ユーロ圏(実態はEU)には安定成長協定による財政規律が求められ、財政赤字対GDP比率は原則3%以内とされています。財政政策の中でも景気底上げ効果が高いと見られる公共投資の動向をユーロ圏についてみると、最近まで減少傾向でした。欧州債務危機に見舞われたという不幸な面もありますが、乗数効果が高いといわれる歳出が減っていたのでは景気回復が遅れるのも必然的と思われます。
なお、新型コロナによる深刻な景気後退に対し、ユーロ圏は20年3月に安定成長協定を緩和することで対応しました。例えば、財政赤字対GDP比率が3%を超えても是正措置が求められないとしています。
また、現段階ではこの緩和措置は21年までですが、ユーロ圏の景気回復の水準は新型コロナ前に届いてもいないことから、ECは来年についても財政規律の緩和を認める方向です。さらに言えば、23年に各国の財政状況が改善(例えば財政赤字が縮小)するのかは見通せない状況です。
仮に今後もズルズルと財政規律の緩和を先延ばしにすれば、財政規律を求める国(オーストリア、オランダなど)が反対姿勢を強めると見られます。そこで先の欧州復興基金はEUが資金を調達し、財政が特に苦しい加盟国に返済義務のない補助金で配分すれば、理屈の上では資金繰りは楽になるはずです。ただ、補助金の拡大などには制約を課すべきとの声も強いようです。復興基金では、資金を集める計画と同時に、いかに賢く使えるかにも注目する必要がありそうです。
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