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ECB議事要旨にみるインフレへの認識
梅澤 利文
2022/01/21

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概要

欧州中央銀行(ECB)が21年12月に開催した政策理事会では新型コロナウイルスの危機に対応する資産購入の特別枠(PEPP)を22年3月に終了することや、インフレについて踏み込んだ議論が行われたことが議事要旨からうかがえます。ただ、米国などに比べ、ユーロ圏のインフレは警戒が必要ながらも年内低下に向かうとの見方がECB内では優勢のようです。



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ECB議事要旨:PEPPなど資産購入政策の今後とインフレ見通しが議論された

欧州中央銀行(ECB)は2022年1月20日に、21年12月15-16日に開催された政策理事会の議事要旨を公表しました。議事要旨によると、足元のインフレ率上昇は主に一時的要因に起因し、これは22年中に和らぐとの見方で一致しました(図表1参照)。しかし、一部メンバーから高インフレが長期化するシナリオも排除できないとの懸念が示されました。

議事要旨には新型コロナウイルスの危機に対応する資産購入の特別枠(PEPP)並びに既存の資産買入れプログラム(APP)について、今後の方針が示されました。

どこに注目すべきか:ECB、議事要旨、PEPP、インフレ、賃金

ECBは政策理事会後に詳しい声明文と、ラガルド総裁が記者会見で理事会の決定内容について説明することから、議事要旨での新たな発見は限られます。それでも議事要旨には、ECBの今後の金融政策運営を占う上で参考となる内容が含まれています。

まず、インフレへの認識です。足元のインフレ率上昇は主に一時的要因に起因し、これは22年中に和らぐとの見方で一致したと述べる一方で、一部のECBメンバーがインフレの高止まりに懸念を示したと述べられています。

この背景は次のように考えられます。ユーロ圏の21年12月のインフレ率は前年同月比で5.0%とインフレ目標水準の2%を大幅に上回っています。しかしこの上昇の背景は天然ガスや原油などエネルギー価格の上昇が主な原因です(図表1参照)。少なくとも天然ガス価格は足元ピークから大幅に下落しています。またドイツの税制変更などインフレ押し上げ効果が年内にほぼ確実に消失する要因もあります。したがってユーロ圏のインフレ圧力が弱まるとの見方で一致したことに違和感はありません。

一方でインフレの今後の動向について、高止まりを懸念する声も一部にあるようです。インフレ押し上げ要因が複数ある中、恐らくもっとも懸念されているのが賃金の上昇です(図表2参照)。ユーロ圏は直近の失業率が7.2%と、過去の平均が9%台のユーロ圏の失業率水準としては低く、労働市場はタイトです。ユーロ圏の足元の賃金上昇率は低いですが、インフレとタイトな労働市場を背景に賃金上昇と、インフレ圧力上昇の流れが生まれないとも限りません。賃金動向がユーロ圏のインフレ動向を占う鍵と見ています。

なお、ラガルド総裁以外でECBで発言力のある2人としてシュナーベル専務理事とチーフエコノミストのレーン専務理事の賃金への認識を比べると、シュナーベル専務理事のほうが賃金上昇圧力に対する警戒感が強いと見ています。

なお、議事要旨を見ると12月の理事会で決まったPEPP終了の方針、例えば22年3月でもPEPP終了方針や、PEPPで購入した債券が満期を迎えても再投資を24年末まで続けるなど金融緩和的な方針はレーン専務理事の提案であったことがうかがえます。一部のメンバーは24年末までの再投資方針に反対した模様ですが、結局、PEPPについての決定や、債券購入が極端に減ることを回避するためAPPを一時拡大する方針が採用されています。ECBにおいてはレーン専務理事のように賃金圧力は見守る必要はあるが懸念とはなっていないという考え方が優勢になっていると見られます。

なお、PEPPについて、その柔軟性は新型コロナウイルス禍の衝撃への対応に必要であったが、他の環境においては適切でないかもしれないとの議論が記載されています。出口戦略という困難なプロセスの中で、本当にきっぱりと分別をつけるというのであれば、それはそれで健全な議論ではなかろうかと筆者は考えています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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