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ベージュブック、景気減速に言及するも、やはりインフレ対応
梅澤 利文
2022/06/02

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概要

高インフレ下では、物価上昇に対し金融引き締めが求められる一方で、コスト高が企業業績や景気を抑制する面もあります。金融政策はギリギリの選択を迫られることとなります。すでに6月と7月のFOMCでは0.5%の利上げが示唆されていますが、その後のFOMCでもインフレ対応を優先しつつ、データ次第で機動的な意思決定が求められそうです。



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米地区連銀経済報告:インフレや景気の鈍化が一部に見られるも、インフレ基調継続

 米連邦準備制度理事会(FRB)は2022年6月1日に米地区連銀経済報告(ベージュブック)を発表しました。今回のベージュブックは5月23日までの情報に基づいて作成され、次回の米連邦公開市場委員会(FOMC、6月14~15日開催)の検討資料となります。

今回のベージュブックでは、経済成長と物価上昇が一部地域で減速している可能性が示唆されています。例えば、4地区は、前回の調査期間以降に成長ペースが減速したと記述されています。一方で、一部地区では物価上昇に落ち着きが見られ始めていることが示唆されています。ただし、大半の地区の調査先は、強い物価上昇が続いたと指摘しており物価上昇の基調は継続していると見られます。

どこに注目すべきか:ブラックアウト、ベージュブック、インフレ、求人

米国では6月のFOMCを前に、当局者が公式なコメントを控える(ブラックアウト期間)が6月4日より始まります。今後、5月の米雇用統計などはありますが、これまでの経済指標やFOMC参加者の発言などからFRBの政策を占うと、インフレ対応を優先する姿勢に変化はないと思われます。

今回のベージュブックで目に付いたのは、サマリーに3地区連銀が景気後退を懸念する企業があると指摘している点かと思います。確かに4月頃からの株式市場下落局面では市場でも一部ながら景気後退が意識されていたかとは思います。もっとも、ベージュブック全体が景気後退をメインテーマとしているわけではなく、例えばボストン地区連銀の調査対象企業が6ヵ月以内の景気後退の懸念を表明していることが指摘されているに留まります。確かに、ベージュブック全体では景気の拡大から減速感が見られるトーンにシフトしていることは明らかですが、全体としては物価上昇への懸念がより深刻と思われます。

昨日公表された経済指標では5月の米ISM製造業景況指数にベージュブックのトーンがうかがえます。5月の米ISM製造業景況指数は56.1と、市場予想の54.5、前月の55.4を上回りました。市場予想が低いのは景気減速観測を反映したためと見られます(図表1参照)。ただ、景気の先行きを示唆する新規受注も改善するなど、底堅さも見せています。

一方で支払価格や入荷遅延指数などインフレに関連する指数は概して高止まりしており、インフレ対応を継続する必要性がうかがえます。ベージュブックでも景気悪化要因としてウクライナ紛争を指摘する声もありますが、インフレによるコスト高を指摘する声もみられ(同じような気もしますが)、金融引き締め姿勢を維持すると思われます。

なお、ISMの雇用指数は悪化しましたが、同日に発表された4月の求人件数は1140万人と、過去最高だった前月からは減少したものの依然高水準です(図表2参照)。失業者数が600万人弱となる中、倍近い求人がある計算です。5月の雇用統計を確認する必要はありますが、米雇用市場は底堅いと見られそうです。ただ、主に自発的に職を探す離職率が頭打ちとなっているように、労働市場にも頭打ちの兆しは見られるようです。

今回のベージュブックで一部の景気減速感が指摘されたことで、一時話題となった0.75%の利上げは、当面検討されないと思われます。しかしながら、景気減速感の背景の多くがコスト高であることを踏まえれば利上げの一時停止も考えにくい選択肢と見ています。9月に利上げ一時停止に言及したアトランタ連銀のボスティック総裁は市場を救済する意図ではないと釈明しています。これが物語るのは、多少市場が動揺しても、インフレが明確に低下基調となるまでFRBは引き締め姿勢を維持することだと見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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