Article Title
スウェーデンの選挙事情と財政拡大の足音
梅澤 利文
2022/09/13

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

スウェーデンで総選挙が実施されました。アンデション首相が属する与党の左派連合と、野党の右派連合が争う構図です。国民の不満が高いインフレ率上昇に対し、減税などで財政政策を緩和(拡大)させる姿勢は右派も左派も大差ないように見られます。アンデション首相の続投が不透明なことからその動向に関心が集まりますが、財政政策の行方にも注意が必要です。




Article Body Text

スウェーデン議会選挙:与党の左派連合と野党の右派連合の議席数は拮抗

スウェーデンで2022年9月11日に総選挙(一院制、定数は349議席、任期は4年)の投開票が行われました。アンデション首相が属する与党・社会民主労働党(中道左派、社民党)は改選前の100議席から議席を伸ばしトップの座は確保することが見込まれます(図表1参照)。

今回の選挙は与党・社民党を含む左派連合(社民党、中央党、左翼党、緑の党)と野党の右派連合(スウェーデン民主党、穏健党、キリスト教民主党、自由党)の争いとなっています。なお、在外投票・期日前投票の未開票分は14日に開票される予定です。与野党の獲得予測議席数は、左派連合(174議席)と右派連合(175議席)で拮抗しており、アンデション首相の続投は不透明な状況です。

どこに注目すべきか:スウェーデン総選挙、右派連合、インフレ

11日に投開票されたスウェーデン総選挙の主な争点は①治安や移民政策問題など、②インフレ問題、と見られます。

①の治安については、最近、スウェーデンで増加する移民系による銃犯罪などが多発したことから関心の高いテーマとなりました。このことは、移民の受け入れ制限などを訴える右派連合にとり、支持を拡大した要因になったと見られます。

左派連合の主要政党である社民党に属するアンデション首相は就任して1年未満ながら、スウェーデンの中立政策に終止符を打つ北大西洋条約機構(NATO)への加盟申請を決断するなどの実績を背景に、高い人気を誇っています。アンデション首相の支持率は6割程度であるのに対し、野党中道右派の穏健党党首への支持率は3割程度、極右のスウェーデン民主党党首への支持率は3割未満でした。

しかし、総選挙は別物です。開票結果を見る限り、右派連合、とりわけ前回(18年)からの議席数の増減では、反移民政策を掲げる極右のスウェーデン民主党が票を集めました。

スウェーデンの総選挙のもう一つの争点はエネルギー危機、もしくはインフレ問題です。スウェーデンの7月の消費者物価指数(CPI)はエネルギー価格上昇などを背景に、前年同月比で8.5%となりました(図表2参照)。スウェーデンの賃金の伸びは3%前後で推移しており、市民の不満は高まっています。

選挙前に、アンデション政権は230億ユーロ(3兆3200億円超)の資金を流動性不足に直面する国内電力会社に提供する措置を発表しました。電力価格の変動に対し、電力会社は市場での電力売買に求められる担保負担が急増していることへの対応です。アンデション首相は金融危機を防ぐための措置と説明していますが、選挙を前にエネルギー価格上昇に対応したとの見方もあります。

より直接的には、石油やディーゼルへの減税で家計や企業に恩恵が及ぶ措置も検討されています。


野党の右派連合も対案を選挙の公約で示しています。例えば、極右のスウェーデン民主党は電力料金に対する恒久的な減税を訴えており、減税規模は左派を上回ると見られます。中道右派の穏健党はインフレで苦しむ家計に対し雇用所得減税を訴えており、財政規律が懸念されます。


スウェーデンに限らず、欧州ではエネルギー価格上昇に対して金融政策を引き締める一方で、財政拡大が見られます。その帰結となる今後の展開に注意が必要です。

 

 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米CPI、インフレ再加速懸念は杞憂だったようだが

注目の全人代常務委員会の財政政策の論点整理

11月FOMC、パウエル議長の会見で今後を占う

米大統領選・議会選挙とグローバル市場の反応

米雇用統計、悪天候とストライキの影響がみられた

植田総裁、「時間的に余裕がある」は使いません