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- 11月の米雇用統計、一筋縄ではいかない
11月の米雇用統計を受け、筆者は先月末の米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の講演の内容を思い出しました。パウエル議長は賃金動向を左右するコアサービス価格や、低調な労働参加率に示される雇用市場への戻りの遅さなどを指摘していたからです。今回の雇用統計ではこれらの点の解釈にやや難しい面も見られ、今後の確認が求められそうです。
11月米雇用統計:全体的には米労働市場の堅調さが示される内容
米労働省が2022年12月2日に発表した11月の雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月から26.3万人増と、市場予想の20万人増を上回りました。前月は28.4万人増(速報値26.1万人増から上方修正)でした。9月は4.6万人下方修正され、9月と10月合計では2.3万人下方修正されました(図表1参照)。家計調査に基づく11月の失業率は3.7%と、市場予想、前月の3.7%に一致しました。
平均時給は前月比0.6%増と、市場予想の0.3%増、10月分の0.5%増(速報値0.4%増から上方修正)を上回りました(図表2参照)。前年同月比も5.1%増と、市場予想の4.6%増、10月の4.9%増(速報値4.7%増)を上回りました。
どこに注目すべきか:米雇用統計、ADP、平均時給、労働参加率
11月の米雇用統計は全体に堅調な内容で、米労働市場の底堅さを再認識させる数字でした。ただし、市場の反応には、筆者の個人的感想として若干違和感もあります。例えば、10年国債利回りは最終的に前日比で低下しているからです。恐らくこの背景は、今回の雇用統計の強さと同時に、次のような解釈の難しさが混在していたためと思われます。
11月の就業者数が前月比26.3万人増は、人口動態などから推定される増加ペースを上回っていることや、市場予想を上回っている点からも強い数字と見られます。
しかし部門別増減をみると、娯楽・接客と、教育・医療、政府部門等が雇用増の大半を占め、部門別の偏りが気がかりです(図表1参照)。また、就業者数は事業所調査に基づきますが、集計方法が異なる家計調査の就業者数は前月比マイナスとなっています。また、給料明細に基づき集計し、サンプル数が大きいADP雇用統計の11月分は前月比12.7万人増と、市場予想を下回る結果でした。集計方法や定義が違うからと言ってしまえばそれまでですが、就業者数全体の動向もデータにより差異があり、今後の展開に注意が必要です。
平均時給も市場予想を大幅に上回る結果で、米労働市場の堅調さが示されました。特に、パウエル議長が指摘したサービス部門の物価(≒賃金)は前月比0.6%増と前月を上回りました(図表2参照)。ただし、製造業などを含む財生産部門は0.2%増と低水準で格差が気になります。また、同じサービス部門でも、運輸・倉庫、情報技術などが賃金上昇をけん引する構図です。採用が増えている娯楽接客の賃金を上回る賃金上昇が、これらの部門に見られるのは違和感もあり、今後の展開を見守る必要がありそうです。
パウエル議長が講演で指摘した労働供給不足の問題も今回の雇用統計で浮き彫りとなりました。生産年齢人口に占める労働力人口の割合で示される労働参加率は62.1%と前月を下回り、コロナ禍で職場から離れた労働者の戻りが鈍いことが示されました。コロナ前に比べ労働参加率が低水準なのは労働者不足、ひいては賃金上昇要因と考えられます。パウエル議長は講演でコロナ前に比べ、働く人の数が概ね350万人ほど減少していると指摘しています。ただし、この背景はコロナによる健康上の理由で高齢者が早期退職したことや、他には移民流入の減少などが要因としてあげられます。これらの要因への対応は主に政治問題であり、金融政策による直接的な対応には限界もあるように思われます。コロナ初期には労働参加率は注目されましたが、今後金融政策の中でどのように位置づけるかに注目しています。
今回の米雇用統計で改めて労働市場の堅調さが数字により示されましたが、内容確認が必要な面もあるようです。
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