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- ユーロ圏賃金動向の現状とこれからのポイント
昨年12月のユーロ圏のインフレ率にピークアウト感が見られました。しかし、エネルギーと食料を除いたコアインフレ率は上昇が続くなど、インフレ率の中身も見る必要があるようです。特にサービス価格の動向を左右する賃金は米国で注目を集めているように、ユーロ圏でもインフレ率の主要な変動要因となる可能性もあり注意が必要です。
12月のユーロ圏総合インフレ率は前月を下回ったが、エネルギーや食品を除いたコア指数は前月を上回った
欧州連合(EU)統計局は2023年1月6日に22年12月のユーロ圏の消費者物価指数(EU基準CPI)を発表しました。総合は前年同月比で9.2%上昇と、前月の10.1%上昇を下回りました(図表1参照)。エネルギー価格の落ち着きに加え、ドイツのように政府がガス代の一時免除などの財政措置を行ったことも総合のインフレ率が低下した要因と見られます。
一方、エネルギーと食品を除いたコアCPIは12月が前年同月比で5.2%上昇し、前月の5.0%を上回りました。価格転嫁などが進行していることがうかがえます。
ユーロ圏のインフレ率をみるうえで、賃金動向が重要になると考える
昨年12月のユーロ圏のインフレ指標の発表を受けた後の欧州中央銀行(ECB)高官の発言を見るとインフレへの警戒姿勢を緩めていないようです。その背景として、同様の悩みを抱える米国で見られるような賃金上昇圧力がユーロ圏でも起きるかに対して関心が高まっているように思われます。
このテーマを考えるうえで、最近ECBが発表した月報に基づきコロナ禍におけるユーロ圏の賃金動向を踏まえ、今後の賃金の先行きを考えます。
まず、ユーロ圏の足元の賃金動向を振り返ると、コロナ禍により現状を把握するのが困難となっていた様子がうかがえます(図表2参照)。例えば、月報ではユーロ圏全体の賃金動向をみるうえでは一人当たり報酬の動きが(通常時には)参考になると指摘しています。しかし、同指数はコロナ禍において、下は前年同期比約マイナス4%から上は同7.1%まで変動しています。雇用コスト指数も同様に変動が見られます。
変動の背景は賃金の変動というよりも、この期間にユーロ圏の各国政府が実施した給与の補填や、雇用を確保するための補助金などの影響が大きいと見られます。ECBの月報では報酬全体を賃金、社会保障、補助金などに分類し、労働の対価としの賃金動向を抽出する作業を行っています。それによると、直近の賃金動向は(純粋な)賃金の動きを反映しているとほぼみなせるようです。
余談ですが、政府の補助は国により雇用者に給与の補助として払われる場合と、家計に直接振り込まれる場合があり、ユーロ圏ではデータ収集の段階で困難な問題もあるようです。
なお、図表2に戻ると、交渉賃金の動きは比較的落ち着いており、この指標を使えばよいようにも思われます。しかし、交渉賃金指数にもおもに2つ問題があります。1つ目は同指数がユーロ圏のすべての国をカバーしていないことです。2つ目は文字通り交渉後の賃金であるため結果が出るのに時間がかかることもあります。これらの点を踏まえて利用する必要があるとみています。
ほかにもユーロ圏の賃金動向を示す指数はありますが、コロナ禍の影響は小さくなったとみなし、今後の動向のポイントを述べます。
今後の注目点を考える
コロナ禍の変動からある程度解放されたユーロ圏の賃金は比較的落ち着いているとみられ、コロナ禍前の水準を多少上回る程度とも見られます。
しかしながら、先の交渉賃金で述べたように、高水準のインフレを背景とした賃金交渉の結果は遅れて反映されるため、これから押し上げ要因となることも考えられます。したがって、今後の賃金動向がインフレを占ううえで注目されます。
なお、その場合インフレ率を考慮した実質賃金が検討されると見られます。実質賃金の算出にはエネルギー価格などで大幅に変動しているCPIではなく、付加価値デフレータを使うと思われ、CPIとはイメージが違う点に注意は必要です。
いずれにせよコロナ禍では政府の補助が主体でしたが、今後はエネルギー価格変動の影響を抑制するための政府補助はあったとしても、インフレが広範囲に続くならば生活水準を維持するには賃金引上げが求められる段階にシフトする可能性があります。
先を読むうえで難しいのは、ユーロ圏の場合これから景気の悪化が見込まれるため、賃金交渉の先行きが読みにくくなっていることがあげられます。
方向としては、景気悪化により賃金上昇はある程度抑えられることも想定されますが、今後の展開を注視することが大切です。
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