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- 6月雇用統計前に、早くも雇用増ショック
ADPショックとも呼べそうなデータが発表されました。ADPの雇用レポートで6月の非農業部門雇用者数は市場予想の倍以上となる前月比で49.7万人増となりました。市場は年内追加利上げ回数をFOMC参加者より少なく見込んでいましたが、当局にさや寄せする展開が想定されます。今後の展開を占ううえで、6月の雇用統計は注視が必要です。
6月のADP雇用レポートで非農業部門雇用者数は大幅な増加を示した
米民間雇用サービス会社ADPが2023年7月6日に発表した雇用レポートで6月の非農業部門雇用者数は前月比49.7万人増と、市場予想の22.5万人増、前月の26.7万人増(速報値の27.8万人増から下方修正)を上回りました(図表1参照)。この1年余りで最速の増加ペースで、雇用は建設や貿易・運輸、娯楽・ホスピタリティといった比較的広い範囲で増加しており、労働市場の力強さが示されました。
一方、ADPの賃金調査で賃金の伸びの減速が示されました。同じ職にとどまった労働者の6月賃金は、前年同月比で6.4%増と、前月の6.6%増を下回り、転職した労働者の年間報酬の増加率は11.2%増と、前月の12.1%増を下回りました。
非農業部門雇用者数は幅広い部門で雇用の拡大がみられた
ADPの6月の雇用レポートにおける非農業部門雇用者数は市場予想を大幅に上回りました。同日に発表された他の雇用関連指標もおおむね米労働市場の堅調さを示唆しています。市場は米連邦準備制度理事会(FRB)による年内の利上げ織り込み回数を従来の1回から2回に大きくシフトさせたとみられます。
市場に大きな影響を与えたADP雇用レポートの内容を振り返ります。図表1で非農業部門雇用者数の推移を5種類の企業規模別でみると、雇用が増えたのは労働者規模が250人未満の中小企業です。この傾向は年初来でみても同様の傾向となっており中小企業の採用意欲の強さがうかがえます。
もっとも、コロナ禍(20年2月~4月)に社員を大幅に減らしたのも労働者規模が250人未満の企業でした(この3種類のクラスで540万人超縮小)。労働者規模250人以上の企業における同期間の労働者削減数は約150万人にとどまっています。
非農業部門雇用者数の増減を産業別にみると、雇用が増えたのは対人ビジネスの娯楽・ホスピタリティを筆頭に、建設や貿易・運輸、教育・ヘルスケアなど幅広い業種で増加がみられます。一方で製造業や情報技術は前月比で雇用が減少しています。製造業などに雇用鈍化がみられるものの、幅広い部門に雇用のすそ野が広がっているように思われます。
6日にはADPの非農業部門雇用者数以外にも米労働市場の堅調さを示す指標がみられました。例えば5月の求人件数は約982万件と前月の1030万件を下回りました。ただし前月は速報値の約1010万件から上方修正されています(図表2参照)。求人件数の水準は減速傾向ながらコロナ禍前の水準は上回っています。また、一般に労働市場の活況度合いを示すとされる離職率は5月は2.6%と前月を上回りました。
別の指標として、サービス業などの動向を反映する米ISM非製造業景況指数は6月が53.9と前月の50.3を上回りました。同指数の主要構成指数である雇用指数は6月が53.1と、前月の49.2を大幅に上回り、雇用の改善が示唆されました。
さらなる追加利上げの織り込みには一段の明確なメッセージが必要か
6日の米雇用関連統計を受け、米短期債券先物市場では年内追加利上げの織り込みが進みました。年内あと2回(1回の利上げ幅は0.25%を想定)の利上げが強く意識される展開となっています。インフレ動向を左右する要因がエネルギーや財価格から賃金主体のサービス価格へとシフトするなか、市場予想を大幅に上回ったADP統計の雇用者数の市場に対するインパクトは大きかったと思われます。6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で年内の追加利上げの回数が2回と示されたものの、市場では1回は織り込んだものの、2回の利上げには半信半疑であったとみられますが、市場はFRBの想定利上げ回数にある程度さや寄せすることも想定されます。
しかし、足元、市場は年内2回を超える追加利上げを織り込むには至っていないようです。インフレ動向に直接影響する賃金は、先のADP雇用レポートでも伸び悩みがみられます(図表3参照)。コロナ禍で労働市場から退出した人が回帰する動きがあるならば、雇用の伸びと賃金上昇の連動性に乖離が生じる可能性はあります。この問いに答えが出るにはもう少し時間がかかりそうです。
また、先のFOMCで年内3回以上の追加利上げを支持していたのは、3回が2人で、4回は1人と少数派です。FOMC参加者から追加利上げ回数引き上げの新たなメッセージが確認できるまで、市場も積極的な利上げ回数の見通しの引き上げは控えるかもしれません。
これらのポイントを考えるうえで、7日に発表される6月の米雇用統計の注目度は高いと思われます。
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