Article Title
バイデン大統領選挙戦撤退、ハリス氏が急浮上
梅澤 利文
2024/07/23

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

米民主党のバイデン大統領は7月21日に11月の大統領選からの撤退を表明し、ハリス副大統領を後継候補として支持すること表明しました。ハリス氏は党の指名候補の座を確保しつつありますが、異例の事態への対応を迫られています。選挙戦は共和党のトランプ候補が依然優位とみられますが、トランプ優位のシナリオを描いていた市場は、新たな不透明要因を前に様子見となっている面もあるようです。




Article Body Text

バイデン大統領は候補者指名を辞退、後継候補にハリス副大統領を支持

米民主党のバイデン大統領は7月21日、11月の大統領選を戦う党の候補者指名を辞退し、選挙戦から撤退すると表明しました。後継候補にハリス副大統領を支持することを明らかにしました。バイデン大統領が撤退したことで、民主党の候補選びは振出しに戻った格好ですが、ハリス副大統領は民主党議員などからの支持を広げているようです。非公式ながら報道機関の集計によれば、ハリス氏は22日の時点で党の指名候補の座を射止めるのに必要な代議員数1976人を超える支持を集めたと伝えられています。

大統領選挙の勝者を「賭け」の対象として算出した調査結果でもハリス氏勝利の可能性が高まりつつあるようです(図表1参照)。

ハリス副大統領が民主党の有力候補になったことで、市場は様子見

図表1は誰を支持するかという「世論調査」ではなく、誰が勝つかの「賭け」に基づいた調査です。縦軸は各候補が勝つ可能性とイメージできますが、ここでは横軸で変化の時点に注目します。

バイデン氏は大統領選から撤退を表明したため、当然ながら勝つ可能性は足元でほぼゼロとなっています。また、図表1でバイデン氏が勝つ可能性が急速に低下したのは6月27日です。バイデン大統領と共和党のトランプ前大統領による1回目のテレビ討論会が影響したようです。

また、テレビ討論会が終わった直後から、ハリス氏が勝者となる可能性が「賭け」の世界では浮上し始めていたようです。ただし、ハリス氏は党の指名候補の座を射止めるために必要な代議員数を確保するなど有力な民主党候補となりつつありますが、まだ時間が短いこともあり、「賭け」の世界で勝利の可能性はトランプ候補に差をつけられているようです。もっとも、11月の大統領選挙を占うには、「世論調査」の支持率が重要で、「賭け」の結果は今の時期の参照にとどめるべきと思われます。

トランプ候補が勝つとの「賭け」が足元では優勢です。トランプ候補の可能性が高まったのは先のテレビ討論会よりも、7月13日に発生した銃撃・暗殺未遂事件の影響が大きかったようです。

ただし、暗殺未遂事件でトランプ候補勝利の可能性が高まったとの見方は増えたものの、足元では暗殺未遂事件前の水準に戻っています。ハリス副大統領が有力候補とみられ始めている証左と思われます。

次に、ハリス副大統領が有力な候補として台頭してきた週明けの市場の反応を振り返ります。トランプラリーの恩恵を受けるとみられる暗号資産(ビットコイン)を振り返ります。

ビットコインの過去1年の価格の推移をみると(図表2参照)、24年4月ごろまで上昇傾向でした。当初は現物のビットコイン価格に連動する上場投資信託(ETF)を米証券取引委員会(SEC)が24年1月に承認したことで、ビットコインETFが相次いで設立され、ビットコイン市場への資金流入が拡大するとの期待で上昇しました。また、暗号資産市場で4年に1度の「半減期」(新規で採掘できるビットコインの量が半分に減る)が4月にあることを見越してビットコイン市場に資金が流入したことも押し上げ要因とみられます。

これらビットコイン市場特有のイベントの影響が弱まる一方で、ビットコイン市場は米大統領選挙も変動要因となりました。トランプ前大統領が暗号資産市場の規制緩和を進めるとの期待が高まったからです。選挙戦でトランプ候補が有利との観測が高まるとビットコインも上昇する傾向が見られるようになりました。足元のビットコインの反発は、トランプ暗殺未遂事件後に起きたことにその点が表れています。

週明けのビットコイン価格は乱高下しています。ハリス氏が支持を集めるなどの報道に対して、ビットコイン価格は下落する傾向があるようですが、水準としてはまだ高く、トランプラリーの勢いは残っているようです。

トランプ候補有利の展開が続いているとみるが、選挙戦の先は長い

市場ではトランプ候補が大統領に返り咲いた場合を見越したトランプラリーが話題になっています。先の暗号資産のように、株式市場ではどのセクターが恩恵を受けるか、反対に受けないかが注目されています。一般にはプラスのセクターとして、エネルギーや軍需産業、規制緩和を見越した金融などが挙げられます。反対に、関税引き上げの影響を受けるセクターなどにマイナスの影響があるとみられているようです。

ただし、足元ではトランプラリーを見越した取引なども全般に落ち着いているようです。大統領選挙の結果の不確実性が高まったことが様子見の背景となっているのかもしれません。

選挙の分析に定評がある米世論分析サイトのファイブ・サーティー・エイト(538)の分析によると、トランプ候補とハリス氏が争った場合トランプ候補がやや優勢とみているようです。一方、ハリス氏はバイデン大統領が候補であり続けるよりも民主党への支持が高まる可能性も一部の分析には示されているようです。ただし、ハリス氏がトランプ候補に勝利する材料は多くなく、ハリス氏が仮に正式な候補者となってもトランプ候補に勝つのは簡単ではないようです。

筆者が注目するのは、仮にハリス氏が大統領選の正式な候補者となった場合、誰を副大統領とするかです。有力者を担ぎ出すことができれば、展開が変わることがあるかもしれないからです。

 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


11月FOMC、パウエル議長の会見で今後を占う

米大統領選・議会選挙とグローバル市場の反応

米雇用統計、悪天候とストライキの影響がみられた

植田総裁、「時間的に余裕がある」は使いません

ECBの今後の利下げを景況感指数などから占う

ロシア、BRICS首脳会議にかける思い